第38話

「え、時間って、どーゆうことですか?」

行原の発言の意図が分からず尋ねる。

「そのまんまだよ。出番だ」

「乱入に出番もクソもなくないですか?」

私の発言は無視して、行原はステージの様子を伺っている。説明する気はないらしい。

コミュニケーションという言葉を彼は知らないのだろうか?

ステージには、1人の女性がギターを片手に上がってきた。肩下ほどの長さの鮮やかな黒髪を靡かせながら、ステージ中央のマイクの前で立ち止まる。ただ歩いて出てきて立ち止まっただけなのに、その所作の美しさに驚く。そして、容姿も佇まいも美人が持つソレだった。

うわー、めっさ芸能人だよこの人。

司会の女性がアナウンスする。

「さー、続いては、現役東大生でシンガーソングライターの野村美咲のむらみさきちゃんです。どうぞ!」

湧いていた会場が静寂に包まれる。

ただ、それは落胆によるものではなく、明らかに曲を聴くための準備のように思えた。

ドキドキしつつ、私にはある疑問が浮かんでいた。

「てか、芸人さん以外も出演されるんですね」

隣に立つ行原に話しかける。

「アーティストも芸人もごちゃ混ぜ参加のフェスだからな。ま、がアーティストなんて小洒落たものかは疑わしいけどよ」

今度は真面目に答えてくれた。

どういう基準で話してるんだ、この人。そして、いちいち馴れ馴れしい。あのレベルの美女に対して、アイツ呼ばわりするとは人として如何なのか。

「いやいや、どう見てもアーティストでしょ。あんなに芸能人ぽい芸能人も今時珍しくないですか?」

「そーか?ウチに所属してるような底辺タレントだぞ、アイツ」

「へー、あの人、ウチの事務所に所属して....って、えええええええええ!!???」

「うるせーな。何だよ急に」

驚く私に対して、露骨に嫌な顔をする行原。

「え、いや、あの、え、あの美女も行原さんの事務所のタレントですか?」

「そーだよ」

平然と答える行原。

「いやいや、彩奈さんと言い、あの美女といい何なんですか。美女しかいないんですか、あなたの事務所?逆にこれで何で底辺なんですか?」

「まだ、設立して、1ヶ月そこらだしな。すぐには駆け上がれねーよ」

「あ、そーいえば、そうでしたっけ?」

お笑い事務所を作るから彩奈を誘ったとか言ってた気がする。

あれ、お笑い事務所?

「も、もしかして、あの美女も芸人だったり....は流石にないですよね?」

自分で言いつつ、私はアハハと誤魔化すように笑う。

「やる必要ないですよねー」



「そーよ」



それまで沈黙を守っていた彩奈がポツリと答える。その視線はステージの彼女に注がれていた。


「てかアイツ、アタシのだし」


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