第36話

「あ、あの、えーっと.....」

急に話を振られ、私が戸惑っていると、彩奈がすかさずフォローに入ってくれた。

「相方のハルよ。手ェ出したらマジ殺すからね」

「俺を何だと思ってるんだ!」

青年が腹を抱えて笑う。

「え、チャラ川チャラ男でしょ?」

「いや誤解を生む言い方やめろっての。初対面だからな?」

青年は私の方をチラリと見ると、ニッと笑った。

「ハルちゃんだっけ?俺は伊吹隼人いぶきはやと。一応、イベントディレクターやってる。芸人やるんだったら、これから会うこともあるだろうから、ヨロシクね」

行原とはまったく違う爽やかな好青年である。

確実に自分とは違う人種だ。

「よ、宜しくお願いします!」

ペコっと頭を下げる。

それを見た隼人が彩奈の方に顔を寄せる。

「おいおい、ちょっと待てって。めっさ良いんだけど!芸人やらすには惜しいんじゃねーのコレ?」

「やっぱチャラ男じゃんアンタ」

「違う違う。オスの本能なのコレは」

「ま、いいけど。てか時間ないから行くわ。アイツはどこにいんの?」

「ステージ脇で待ってるってよ」

「了解。行こっ、ハル」

彩奈の言葉に頷く。

走り出した彩奈を追いかける。

振り返ると、隼人がニッと笑い小さく手を振っていた。

小さく手を振りかえす。



あ、なんか青春って感じがする.....!



そんな暢気なことを考えていると、人混みが見えてきた。

今回のフェスがある公園の野外ステージに近づいてきたのだ。もう始まっているようで、かなり熱気を感じる。

もう中秋に差し掛かっており、決して暑くは無いはずなのだが。いや走ってきたから暑いだけかもしれないけど。

みんなステージに夢中だからか、あまり私達には気も留めていない。

今のうちに行原がいるであろうステージ脇に行かなければ!

幸運なことに、ステージ脇には案外すんなりと辿り着けた。

そして、行原の姿もすぐに見つかった。

ステージ脇でスマホ片手にステージの様子を伺っているようだった。

「おい変態!」

彩奈が行原に声を掛ける。

いや呼び方。

「着て来てやったわよ」

「ややこしいな」

「で、どーしたら良いわけ?」

「最初に言った通りだ。乱入するんだよ」

「具体的な話を聞きたいんだけど?」

「具体的もクソもねーよ。ただ、その格好で出てフェスをぶち壊せば良い」

「ぶち壊す?」

「今回のフェスは紅葉がテーマなんだとよ」

「へー」



「お前らの乱入で演者も客も血祭りにしてやれ。んで、最高の赤い景色を見せてやろーぜ」

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