第35話

彩奈のメイクも終わり、20分立て籠ったコンビニのトイレを2人は後にした。店内の客や店員の視線が痛かったが、気にしないことにした。

てか、気にしてたら、やってられない。

ちなみに、お尻に関しては開けてはいない。元の全身タイツの状態である。さすがに会場に着くまでは外せない。

マジで捕まる可能性が出てくるから。

ただ、歩いていくだけのメンタルも時間もないから、2人は小走りで会場に向かっていた。

たかが数百メートルの距離なのだが、これがまたキツい。

「ハァ、、、ハァ、、、てか遠っ!!」

文句を言わずにはいられない。

「大丈夫?」

着替えや荷物を一つにまとめたカバンを抱えていても、何も持っていない私を気遣う余裕のある彩奈が、私はただただ恨めしかった。

「クッ.....これが陽キャの運動神経か....」

「ぶつぶつ言ってないで走ったら?」

そんなこんなで、会場である公園入り口に着いた。人の出入りはいくらかあり、やはり視線をいたるところで感じた。

当たり前だ。

若い女2人が全身タイツ着て走っているのだから。話しかけたくはなくても、気になって見てしまうのだろう。

何でお金になるかも分からないのに、ここまで身体張っているんだか。

しかも、本番はこれからだというのに。

入り口に着いたところで、行原のツレだと言う隼人を探すことに。といっても、私は知らないから彩奈頼みなのだけど。

しかし、その隼人という人物はスグに見つかった。

向こうから声をかけてくれたからだ。

「お、彩奈じゃーん!」

明るいトーンの声がした。

最近、行原の低い声ばかり聴いていたからか、耳馴染みがない気がした。

見ると、見るからにチャラそうな容姿の青年が手を振りながら、こちらに駆けてきていた。

青年の髪色は明るい茶色で、紅葉フェスと書かれた赤いTシャツの上からアロハシャツを羽織っている。そして、耳にはピアスをつけて、頭にはグラサンを乗せている。うん、チャラそう。

彼が隼人なのだろうか。

「おせ〜よ〜。早く来いよなお前ー。チャンス逃しちまうぞ」

青年は明るいトーンだが、本気で心配しているのがわかる。きっと、良い人なのだろう。

「分かってるっつーの。だから準備に手間取っちゃったのよ」

カバンを青年に渡しつつ、彩奈は普段の調子で話している。行原同様、深い付き合いなのだろうか?

いや陽キャのコミュニティの広さ凄いな。

ふと、青年の視線が私に向く。


「で、この子は?」

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