第34話
鏡の向こうには、いつもの芋臭くて平凡で地味な自分はいなかった。
パッチリ開いた瞳と綺麗な肌にうっすらと紅く染まる唇。私には無かったものを、目の前の私は持っていた。
「これでも、人前に出るのは嫌?」
彩奈が爽やかに笑う。
彩奈の笑顔を見た時、何か普段は感じない感情が湧き上がってきて、ふいに私は泣きそうになってしまった。
慌てて涙を堪える。
「うんうん。そんなことない」
「そっか。ならよし!」
彩奈がパンッと手を叩く。
「さっ、自信ついたら、早く着替えな。マジでもう、いつ連絡来てもおかしくないよ!もうフェスも始まる時間だし」
「わ、分かってるよ」
その後、私が服をすべて脱いでタイツに着替え終わった頃に、彩奈のスマホに丁度LINEのメッセージが届いた。
「うわっ、もう来たか.....」
そう話す彩奈は、なぜかもう一度、鏡を見ながらメイク直しをしていた。
「ごめん、読んでくれる?」
彩奈にスマホを手渡される。彩奈はスマホを手渡すと、またスグにメイク直しに取り掛かった。
彩奈に言われるがまま、LINEの内容を読む。
「出番まであと5分くらい。急いで会場に来い。荷物は公園入り口に隼人がいるから預けてくれ....だってさ」
「うわー、もうそんな時間か。って、よくよく考えたらアタシら20分くらい、このトイレ占領してるよね。むしろ待ちすぎか」
彩奈は独り言のように言いつつ、髪の毛を二つに結んでいる。それに、顔にもかなりチークを塗りたくっており、頬がかなり赤い。
せっかく大人びた容姿で綺麗でカッコいいのに、それとは逆のメイクをするのだろうか。
彩奈のメイクも気になったが、行原からのLINEの内容も気になる。
出番って、どーいうことだろう?
乱入するんだよね、今日?
それに、隼人って誰?
私の表情を読み取ったのか、彩奈が淡々と答える。
「あー、多分だけど、今日のも、ちゃんとした仕事だと思うよ。アイツは勝算のないことはしない奴だから。乱入っていうのは、恐らくギャラが出ないし、フェスに来たお客さんにドッキリみたいな形で楽しませる演出ってことじゃない?」
「乱入ってワードに、そこまで意味持たせますフツー?」
「アイツ、フツーじゃないし。あ、あと隼人っていうのは、アイツのツレでイベントディレクターやってる奴。多分今日のフェスの関係者」
「な、なるほど」
要は今日の仕事は、そのツレのコネという訳か。
いや、前もって説明してよ!
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