第29話
小規模、と行原は言っていたが、会場に到着すると中々の人数が押し寄せていた。
ざっと100人はいるんじゃ?
平日といえども、そこはさすが渋谷というべきか。
そんな会場のすぐ近くのコンビニのトイレで、なぜか私と彩奈は全身タイツを着ていた。
「いや何で!?」
「ちょっと!声でかい!」
彩奈が人差し指を立てて、シーッと私に言う。
だが、私の興奮は収まらなかった。
「いやいや、何で落ち着いてられるんですか逆に。てか今から何やるんですか?芸人の筈ですよね私達?芸人って舞台やテレビでお客さんを笑わせるのが仕事ですよね?迷惑系YouTuberじゃないんですよ?」
「言いたいことは分かるけど落ち着いてくれる?」
ちなみに彩奈は赤、私は青の全身タイツを着ていた。いやモ○ヤンか。
ヌーブラヤッホーって言ったらウケるかな?
そんなことをチラッと思った。
段々と思考が芸人に寄っていってる気がした。
まだ芸歴初日の奴が何を言っているんだという話なのだけど。
てか、フェス乱入なんてしたら、もうこの業界でやっていけないのでは?こんなことで名を挙げても、コンビニのアイスケースの中に入った写真をネットに投稿して炎上した奴と同じ未来しか歩まないのではなかろうか。
「ねー、本当に大丈夫かな?」
「大丈夫じゃないけど、大丈夫なんじゃない?」
彩奈は不安そうな様子もあるが、なぜか落ち着いているように見えた。
「アイツが言ってるんだから」
アイツとは行原のことだろう。
ネタのことといい、何故そこまで行原を信頼しているのだろうか。やはり愛し合っているから?
じゃないと、こんな格好させられたら、普通は嫌がるよね、もっと。いや、彩奈がマゾという線もあるのか。鼻フックやりたがってたし。
「てか、この後の流れをあのアホに確認しないとね」
彩奈がスマホを取り出す。
行原には着替えてこいとしか指示を受けていなかった。
彩奈が行原に電話している間、私は鏡を見ていた。顔しか映っていないのだが、逆に救いだ。今の自分の全身姿なんて見たら、恥ずかしくて外に出れない。
今の自分は顔以外すっぽり青いタイツに身を包んでいるのだから。スタイルの良い彩奈と並ぶといかに自分が貧乳なのか分かって辛い。
はー、出たくないなー。
「ダメだ、全然聞こえない」
彩奈がふと呟く。
フェス会場近くということもあり、周囲はざわついている。規模は小さくても、やはりフェスはフェスだ。
え、どーするの、これから?
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