第28話

「てかアヤナでいーよ。同い年なんだし」

「いやー、でも。私の方が後輩ですし」

「一ヵ月だけじゃん」

「いや芸歴は違うじゃないですか」

フェスに向かう道中、私たちはお互いのことを知ろうと、色んな話をしていた。

「いつからやってるんですか?」

「高1かな。竹下でスカウトされて。そう考えると、もう5年やってるのか。うわ、ベテランじゃん、アタシ?」

「そーでもないだろ」

冷たく行原があしらう。

「ま、でもコンビ組むんだしさ、遠慮なく意見言い合えた方が良いし、敬語禁止でいこ。敬語使ったらケツバットね」

「罰重すぎじゃないで....罰重過ぎでしょ」

「危なかったね。もう少しでスポーツオーソリティに走り出すとこだったよ」

「罰ゲームの為に頑張り過ぎでしょ」

確かにコンビを組むのであれば、敬語は無い方が良いのかもしれないが、恐らく彩奈なりの優しさなのだろうと私は受け取った。

「てか、本当に相方が私でいいの?マジでど素人だよ?」

「いいって。アタシも似たようなもんだし。それにハルって性格良さそうじゃん。面倒な奴の方がアタシはゴメン。前にコイツが連れてきた子役崩れのシンガーソングライターとか最悪だったわ」

「私以外にもいたんだ」

知らなかった。合いそうな私が来たから歓迎してくれただけだったのかな?なんだかんだ言って、彩奈は姉御肌タイプに思える。誰にでも優しく出来そうだけど違うのだろうか?

「でも一応、お笑いに強い事務所なんですよね?他にも芸人いるんじゃ?」

「まだ立ち上げたばっかだし、大していねーよ。スタッフも俺1人だしな。多過ぎると手が回らん」

行原が大きな欠伸をする。

なるほど、そんな事情があるのか。

「つーかよ、アメフラシよ」

「雨宮です。もう晴で覚えた方がいーんじゃないですか?」

「確かに。って、んなことどうでもいーんだよ。お前さっきから、ちょくちょく芸人目指してるって言い方してるよな?」

「そーですけど。え、なんかダメでした?」

「ダメだ。なぜなら、お前は既に芸人だからだ」

「.....へ?」

「だから、芸人志望じゃねーんだよ。すでに、アゲハプロ所属のプロの芸人なんだよ、お前は。さっき、契約書にもサインしたろ?」

「.....え、マジで言ってます?」



「大マジ。だから、こっからはハンパは通じねーからな?」



「....お空がキレイ」

行原の脅しめいた言葉に、私は一瞬、思考を放棄するのだった。

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