第30話

「あ、LINEきてる」

行原に電話しようとしていた彩奈がスマホの画面を見ながら呟く。彩奈が行原のLINEの内容を、私にも聞こえるように声に出して読む。

「出番になったら、またLINEする。俺はやることあるから、それまでに着替えとけよ.....って、相変わらず上から目線だなコイツ」

彩奈が苦いものでも食べたように顔を歪める。

仲が良いのか悪いのか、どっちなんだろうか。

「あ、またLINEきたわ」

彩奈が、またポツリと呟く。

その内容を読んだ彩奈は、更に顔をしかめた。

「その衣装の特性を、考えて着ろよ.....って、まーた、コイツは訳わかんないこと言ってる」

しかし、そう言いつつ、彩奈は特別驚いている様子はなかった。こういったことが、以前にもあったのだろう。

「どーいう意味なんだろう?」

「さー?でも、アイツのことだし、もしかしたら、このタイツに何かしら仕掛けがあるのかもね」

「仕掛け?」

「なんか、前にもあったんだよねー。バニーガールの衣装着させられたときに、恥部が光ったりとか。あれメッチャ恥ずかったわ」

「うわー、女子にそれやるんですか.....」

しかも、彩奈クラスの美女に対してだ。普通じゃありえない。

と、いうことは、行原は普通ではないということだ。このタイツにも普通ではない点があるのだろうか?

着てみた感覚では、普通のタイツのように思える。全身タイツなんて、人生で初めて着たから普通がなんなのかは、分からないのだけど。

とりあえず、手でペタペタとタイツを触ってみるが、特におかしな点は見当たらない。

タイツそのものではなく、着方を面白い感じに工夫しろとか、そーいうことだろうか?

「彩奈、もしかして、これって....」

そのことを伝えようと彩奈の方を振り返ると、彩奈が引き攣った笑みを私に向けていた。トイレという密室の為、嫌でも至近距離で見つめ合うことになる。いや美女とゼロ距離はダメでしょ。こんな格好をしていても、彩奈はメチャクチャ可愛い。なんか常に女としての格を感じさせられる。

本当に芸人にしておくには、勿体ない人だ。

「ど、どーしたの?」

私が恐る恐る聞くと、彩奈がポツリと答える。


「わ、分かっちゃったかも。このタイツの仕掛けに」

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