笑われる女

第25話

芸人を目指すことになった次の日。

コンビニのバイト終わりに、私は行原の芸能事務所を訪れていた。契約書類や手続きのことで色々あるらしい。

事務所に着くと、行原と彩奈が既にいた。

2人とも事務所のソファでくつろいでいる。流石に昼間からおっ始める気はないらしい。

私が来たと分かると、行原はすぐに机に並べていた書類を私の元へ持っていき手渡した。

「お、来たか。早速だけど、とりあえず、この辺の書類にサインしてくれ。マネジメントに関することとか、売上のマージンのこととか、なんか小難しいこと書いてあるけど、とりあえず名前書いてくれ」

「あの、説明になってないんですが?」

「説明しなくても、どーせやるだろ?」

「そ、そーですけど。でも普通は説明しますよね?説明しないと問題というか.....」

「芸人が細かいこと言ってんじゃねーよ」

「いや芸人関係ないでしょ」

いつの時代の話してるんですか。

「え、なんかやましいことでもあるんですか?」

「ない。でも、やましい感じのことはしたい」

「どーいう感情ですかソレ」

行原のボケに呆れながら書類にサインする。

「早くしろ」

「そんな急かさなくても」

「アホか。早くしないとダメなんだよ。今日は初仕事があんだから」

さらっと言った行原の言葉に、私は固まった。

「え、仕事ですか?」

「そーだよ。お前がコンビニでバイトなんかしてるせいで、時間ギリギリなんだよ」

「いや仕事があるなんて、一言も聞いてないですよ!?言ってくれてたら、もっと早く来たのに」

「いや今朝急に決まったんだよ。なのに、お前の連絡先分からんし」

「あ、確かに」

そーいえば、連絡先を交換していなかった。

「とにかく、書類だけ書いてくれたら仕事は行けるから。よし、書いたな?じゃあ行くぞ」

言うが早いか、行原はテキパキと書類を片付けて、昨日の黒いリュックを背負う。

「は、はい」

「とりあえずT武線乗るから」

行原に乗車券を渡される。

「あ、電車移動なんですね」

「当たり前だろ。タクシーなんて売れてから乗れ」

「は、はぁ」

ソファで寝ている彩奈の頭を行原が小突く。

「おら、起きろチンゲ頭」

「誰がチンゲ頭よ」

相変わらず仲が良い。 

なんとなく複雑だ。


そこから急いで3人は電車に乗り込んだ。

電車に乗り込んでから行原に聞く。

「てか、今日って何の仕事なんですか?」

そう聞くと、行原がニヤリと笑った。


「フェスだ」

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