第26話
「フェス?」
私の言葉に行原が頷く。
「今日、渋谷で小規模だがフェスがある。そこに今から乱入するんだよ」
「乱入?え、仕事じゃないんですか?」
「営業っていう立派な仕事です」
いや、それ営業じゃないよね?ただの迷惑行為だよね?
「てか今朝仕事が決まったっていうのは?」
「朝に思いついたんだよ」
「あー、なるほど.....」
私はまだ行原という男を見誤っていたのかもしれない。中々にとんでもない奴だ。
「え、大丈夫なんですか?」
「大丈夫だろ。ま、もし怒られそうになったら、俺がなんとかするから。一応社長だし」
頼もしいような、頼もしくないような。
そして、最後の言葉が引っかかった。
「てか、行原さんって社長だったんですか?」
「あー、そーだけど。言ってなかったっけ?」
「言ってないですよ。スカウト担当とかかと」
「まさか。まー、スカウトもするけどな。社員俺だけだし」
「なるほどー.....え、社員俺だけ?」
「あぁ。あれ、言ってなかったか?」
「一言も言ってないですよ。てか会社じゃないじゃないですか。フリーランスですか?」
「一応起業してるから会社なんだよ。1人だけどな」
なんて茨の道を進んでるんだこの人.....
大学を中退した身としては、フリーランスの道も考えたことはあったが、自分には無理だと諦めていた。
行原の生き方は純粋に凄い。が、やっぱり自分には無理だなと思った。
芸人を目指すのだから、似たような道にはなるのかもしれないが。
「そーいえば、私は彩奈さんとコンビを組むことになるんでしたっけ?」
「そーなるな。ピンが良かったか?」
「いや、そーいうわけでもないんですけど。でも、こーいうのって、もっと色んな人と組んでみてから考えるべきなんじゃないですかね?」
素朴な疑問だった。昨日たまたま彩奈が劇場での出番があったから、コンビを組む流れになっているが、もし違ったらどうなっていたのだろうか?
行原は少し考える仕草を見せた後、私に問うた。
「お前、いくつだっけ?」
「は、20歳ですけど」
「てことは、彩奈と同い年かもな。2002年生まれ?」
「そーですけど」
「じゃ、同い年だな」
「それが何か関係あるんですか?」
てか彩奈さん、同い年だったのか。大人っぽいから、もう少し歳上かと思ってた。
「俺はさ、コンビって、ある程度お互いを尊重できた方が良いと思うんだよ。価値観とか諸々。そーなると、歳近い方が良いと思う訳」
「はい」
「ま、そーいうこと」
「え?」
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