第24話
行原が言葉を続ける。
「冴えない奴の方が化けやすいんだよ。ほら、芸能人ってプライベートで暗い奴多いだろ?陰キャって意外とクリエイティブな才がある奴多いんだ」
「.....」
気持ちは簡単には整理が出来ない。
「ただ、面白いって思ったのは事実だ」
「後付けですよね?」
「後付けじゃない、といえる証拠はないかもな」
嫌な返し方だ。
頭の良い人の話し方。あまり好きではない。
「自分は特別だとでも思ったのか?」
芯をついた質問にたじろぐ。
「いや、そんなわけでは....」
「ま、気持ちは分からなくもないけど。誰だって、喝采や羨望の眼差しは浴びたいし、他人より上に行きたいもんだ。その素質が自分にあるって言われたら、そりゃ期待もするわな」
ぐうの音も出ない。
「誰だって大人になりゃ、挫折の一つや二つ経験してるもんだ。期待する気持ちが悪い訳じゃない」
「けなそうとしてんのか、慰めようとしてんのか、ハッキリしてくれますか?」
「どっちでもねーよ。事実を言ってるだけ」
淡々と行原の話は進む。
「それに、大人だからって、夢や希望を持たないのも筋違いってもんだと俺は思う」
「そーですか?」
普通に良い大学へ行き、良い会社に就職すること、それが世間一般の正しいルートだ。その道に進む為には夢や希望は捨てなければいけない筈だ。私は、その道からは外れてしまったけど。
「夢のない人生って楽しいか?」
「さー?でも、大人は折り合いをつけて生きてくもんでしょ?」
「アホくさ」
行原が低く呟く。
「なら俺は、ずっとガキのままで良い」
ガキのまま.....
「大人になってもバカやんなくて、どーすんだよ。つまんねーだろ、そんな生き方。馬鹿馬鹿しく生きた方が面白いんだよ」
それに、と行原が言葉を続ける。
「お前は、面白く生きれる奴だと思った。だからスカウトしたんだよ」
「面白く生きれる....」
「芸人って生き様って言うだろ?元は面白くないとダメなんだよ。お前は面白い。間違いなく」
行原の言葉に嘘はないように思えた。
たかが数時間前に会っただけの関係なのに。
なぜか彼のことは信じたいと思った。
「で、結局やんのかお前は?」
行原の問いに、私は気が付くと頷いていた。
「はい!」
こうして、私の地獄は始まった。
いや、地獄だと思っていた世界への挑戦が始まったのだった。
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