第23話
事務所に戻ると、上半身裸の行原がソファでくつろいでいた。
「いや服着てくださいよ!!」
「着てんだろ」
「まだ着てない部位があるんですよ!」
「部位って言うな、部位って。牛か俺は」
行原は仕方なしといった様子でシャツに袖を通し始める。彩奈と行原が2人とも衣類を着たところで、改めて話をすることに。
「てか、えーっと、あの、何してたんですか?」
「そりゃ俺のセリフだ。お前こそ、何しに来たんだよ?」
冷めた目で見つめられると、改めて自分のしたことの大きさを思い知る。
そーだ、相手のことより、まずは自分のことだ。
私は覚悟を決めた。
「あの、その、ほんと、勝手なんですけど.....やっぱり芸人として頑張らせて頂きたいと言いますか.....その、はい」
「へー、やりたいんだ」
「は、はい」
「いいよ」
「へ?」
行原の言葉に拍子抜けする。
「え、いいんですか?」
「いーよ。どんどんやれ。仕事の斡旋とマネジメントはしてやるよ」
「あ、ありがとうございます!」
まさかの言葉に安堵する。
よ、良かったぁ.....
しかし、素朴な疑問も頭に浮かぶ。
「てか怒ってないんですか?」
「何で?」
「いや普通怒りません?断られてスグに、やっぱやりますなんて言われたら」
「よくあることだからな」
行原の調子は変わらない。
「それに、この業界で10年続ける奴なんて何千分の1の確率だ。前線に立ち続ける奴なんて、本当に一握り。分母が多いに越したことはないんだよ」
「そ、そーいうものなんですか」
「そーいうもんさ。だから気楽に本気でやれ」
「気楽に本気?」
「売れないのが当たり前。売れたらラッキーくらいでがむしゃらに頑張れば良いってことだよ」
「な、なるほど」
「ま、道は俺が作ってやるから。せいぜい頑張れ」
行原の言葉に棘はない。
だからこそ、1つ引っかかることがあった。
「じゃあ、誰でも良かったんですか?」
私の言葉に行原の眉がピクリと動く。
構わず続ける。
「私と会った時に、私を見て面白そうって言いましたけど、アレも営業トークだったんですか?不幸そうな私を見て.....誘ったんですか?」
本音だった。
だからこそ知りたかった。
私の問いかけに、行原はポツリと言葉を洩らした。
「そーかもな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます