第19話

「ちょ!引っ張りすぎ引っ張りすぎ!!もういいって!!」

「まだまだ」

「18禁になる!18禁になるから!!」

「それはそれで良いじゃん」

「良くはない!!」

激痛に悶える私を見て、会場は盛り上がっている。みんな悪趣味だ。人間の醜悪さを知った気分だ。

だが、悪い気分ではなかった。


"お前に皆の羨望の眼差しが集まることを約束してやる"


羨望の眼差しなのかは分からない。ただ、みんなの視線は私に釘付けだ。当初の予想通り、バカにした視線な気はするが。

ただ、思ったほど、悪いものでもない。



みんな笑っている。


その中心に私がいる。


私を見て、みんな笑っている。



"お客を1人残らず笑わせて、皆が羨む注目を掻っ攫う。それがプロの芸人。最高に面白ぇ仕事だ"

行原はそう言っていた。

なんとなく、その意味が分かった気がした。

ただ、痛いものは痛いし、恥ずかしいものは恥ずかしい。

「って、いつまで引っ張ってんの!!?」

「朝まで」

「鼻ちぎれるわ!!」


その後、殺人フックから解放された私は、舞台上で力尽きた。その後のくだりがどうなっていたのかなんて記憶にない。ただ、みんな笑っていたなーと消えそうな意識の中で思っていた。


コロナ禍ということもあり、ライブが終わってから握手会等はないようで、そのまま解散ということになった。

意識が戻ってきた私は、舞台袖でビキニの上から衣類を見に纏うと、ようやく一息つくことが出来た。

たった十数分がえらく長く感じた。

スポットライトを浴びたのは人生で初めてだった。人前で水着になったのも、鼻フックをされたのも、もちろん初めてだ。

夢だったのではないかと思うほどに、刺激的で非現実的な時間だった。

「やったね」

隣で同じく衣服に着替えていた彩奈が私に声をかける。

「結構ウケてたんじゃない?」

そして、ニヤリと悪戯っぽい笑みを浮かべている。

「そーですかね....?」

「うん、イイ感じだったよ」

何と返したら良いか分からず、私は何も言えなかった。

ウケていた。確かにそうかもしれない。

ただ、それが芸能界でやっていくという決心に繋がる訳ではない。

今日は、たまたまうまくいっただけだ。


そんなことを考えていた時、私の前に芸能界へ私を誘った張本人が現れた。

「行原.....」

「どーだ?手に入ったか?」


彼は一言そう尋ねるのだった。








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