第15話

私がキョトンとしていると、彩奈が照れたように、そっぽを向く。

「って、アタシが言うのもおかしいんだけどね!」

もう、ぶりっ子キャラは完全に忘れている様子だ。

「え、もっと強く引っ張って良いんですか?」

私がそう聞くと、彩奈の両目がウロウロした。

「いや、えーっと.....い、いいよ。引っ張っても」

「あ、良いんですね。何でさっきはダメだったんですか?」

「え、そーいうこと聞いちゃう?」

彩奈の顔がさらに赤くなっている。

え、どこで照れたの?

一瞬理解出来なかったが、私はハッとした。

なんとなく分かった。思い切って聞いてみる。

「あ、彩奈さ.....アヤニャンってドMなんですか?」

「いや違うけど!?」

ツッコミが飛んでくる。

「違うんですか?」

「いや違う違う。そんな訳ないじゃん」

「いや、でも、こんなにいっぱい異性がいる前で半裸で醜態晒してるのに、もっとやって欲しいなんて、そうとしか.....」

「いや、うん、まー、改めて説明されると、そーなんだけどさ。これはお笑い的なアレっていうか.....」

彩奈はどこか歯切れが悪い。

「お笑い的なアレ?」

「ほら、よくあるじゃん?『押すな押すなは押せ』みたいな」

「あ、なるほど」

『芸人泣かせかよ、お前』

唐突に天から声が降ってくる。だが心なしか楽しそうだ。

『もう何も考えずに強く引っ張ってやれよ。けしかけといてアレだけど、早く楽にしてやれ』

「あ、はい」

『で、早く終わろうぜ』

「なんか面倒になってきてない!?」

彩奈がツッコミを入れる。

『なってない、なってない。てか引っ張られてないで、自分から前に出て引っ張られにいけよ芸人なら』

「いや、それはなんか恥ずくない?」

『恥ずかしがるなよ芸人が。むしろ、自分から身体張ってナンボだろーが』

「えー」

彩奈が露骨に嫌そうな顔をする。

本心を隠せない性格のようだ。

『何の為のお色気衣装なんだよ。ちゃんと、その巨乳活かせよ、巨乳を』

「分かってるっての。アンタ、マジでいつかセクハラで訴えるから」

2人のやり取りで、ちらほらと笑いが起きている。お客さんが笑っている様子を見ていると、このやり取りはこれが初めてではない気がした。

「じゃあ.....もう、やってよ」

彩奈に促される。

「なんか心折れた」

「じゃ、追加で鼻も折りますね」

「うまくいこと言うな」


その直後、彩奈の絶叫が劇場に響いたのだった。


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