第13話

彩奈の言葉がすぐには飲み込めなかった。

鼻フック?

「えーっと、は、鼻フックっていうのは、たまにバラエティの罰ゲームとかでやってる、アレのことですか?」

私がそう聞くと、彩奈が「そうソレ」と言った。

「てか、意外とお笑い詳しいよね」

「いや、そんなこともないですけど.....」

「の割には、色々受け入れ早くない?なんだかんだ堂々としてるし」

「え、そんなことないですよ」

「すごい謙遜。まぁ.....いいけど」

彩奈は納得いってないようだったが、そこで会話を止めた。

いや本心を言っただけなのだけど。

そう思ったが、ココで長々と話すわけにはいかない。そんなことより、この後のコトが心配すぎる。

まさか、コレやらないよね?

「とりあえず、コレ持って早く戻ろっか。待たせちゃまずい」

彩奈に言われ、ヘルメットを持って舞台に戻ることに。

舞台に戻ると、パラパラと拍手が起きた。

「も、持ってきたよ?」

彩奈が天に向かって尋ねる。

ややテンパっているのだろうか。キャラが抜けている。

『お、持ってきたな。御苦労御苦労』

満足気に行原が言う。

上司かよ。

思ったが、口には出せなかった。行原がスグに話し始めたから。

『よし!じゃあ装着してみろ。まずはアヤニャンから』

「え、えぇー!?あ、アタシからぁ!?」

彩奈が露骨に嫌なリアクションをする。

『てか、キャラはどーしたよ?』

「あ、忘れてたわ。許してニャン?」

『いや遅ぇよ』

2人のやりとりに笑い声が起きる。

うまい掛け合いだ。

なるほど、こうやって笑いを作っていくのか。

『とにかく、早よメット被って豚鼻さらせよ』

「えー.....待って。マジでヤなんだけど」

ボソボソと呟きながら、彩奈は猫耳カチューシャを外してヘルメットを被る。二つに結っている髪が、ヘルメットで押し潰され乱れる。

『おら、鼻も』

「わ、分かってるって.....」

行原に促され、彩奈はヘルメットについている金属のフックを自らの鼻に挿入した。

観客から「おぉっ!」という歓声と口笛や冷やかしの言葉が飛び交う。女子からすると、聞いていて、あまり気持ちの良いものではない。

彩奈の顔を見ると、まだ鼻が変形している訳ではないが、少し顔が赤くなっていた。恥ずかしいらしい。

もしくは、これから行われることを想像してしまっているのか。

『よしっ準備は出来たな。じゃ、ハルピョン』

「え?は、はい」

唐突に名前を呼ばれ驚きつつ返事する。


『お前引っ張ってあげろよ』

「へ?」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る