第12話
「そ、それで、私たちは何をすれば良いの?」
行原に問う。いや、今は全ての笑いを司りし神様的存在の人か。長いわ。
『簡単だ。さっきも言った通り、お前らみたいなどつまらない女芸人もどきでも一瞬で面白くなれる装置を、そっちに送る』
「お、面白装置.....」
彩奈が呟く。
『じゃ、舞台袖に装置あるから、ちょっと取りに行って』
「いやそこはセルフなの!?」
ついツッコんでしまう。
「途中までしか届けてくれないんだ.....」
小さくボヤいたとき、数人の笑い声がした。
気分は悪くはない。
自分と関わった人が楽しんでくれて、さすがに嫌な気にはならない。
ただ、こんな格好で人前に出続けたくはないけど。
何をするのか分からないが、今のところ早く舞台から降りたい。本当に行原の約束通りになるのだろうか?
私は早く帰りたい。そして、寝て今日のことを記憶から抹消したい。
疑問に思いつつ、とりあえず私と彩奈は舞台袖に出戻った。
私はほっと一息吐いた。
束の間の休息だ。
舞台袖に来たものの、面白装置らしきものは見当たらなかった。
「どこにあるんだろ?」
もしかしたら「ないやないかーい」みたいな、ツッコミを期待しているのだろうか?
だとしたら、かなりつまらないが.....
私がそんなことを考えていると、隣で同じように探していた彩奈が「あ」と声を出した。
舞台袖は暗くて足元が見えづらかったのだが、黒い幕の陰に何やらヘルメットらしきものが2つ置いてあった。
「コレかな?」
恐る恐る彩奈がヘルメットの1つを手に取る。赤色のものだ。
私も釣られて、もう1つのヘルメットを手にとってみた。青色のものだ。
「!」
ヘルメットには、前方にフックのような金具、後方には前方のフックに繋がれた紐が垂れており、紐の先端には、これまたフックが付いていた。
え、何コレ?
これのどこが面白装置なのだろうか?
ヘルメットを被っただけで面白い訳がない。
私が困惑していると、彩奈がはーっと深い溜息を吐いた。
「これかー......」
ポツリと呟く。
いや、どれなんですか。
彩奈の溜息とヘルメットが頭の中で繋がってこない。
「あの、コレ何なんですか?」
彩奈に尋ねる。
彩奈は私を見ると、苦笑いを浮かべた。
「あ、分からない感じ?」
「は、はい」
「知らない方が良かったかもねー.....」
含みのある言い方だ。
彩奈は少しの間、口籠もっていたが、渋々といった感じで正解を口にした。
「これは.....鼻フックです」
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