第11話

「そ、そーだね。えっと、あの、どーしよっか」

何も生まれない。

ただ、ビキニ姿の若い女2人がぶりっ子しながら喋ってるだけだ。

観客も静まり返っている。

急に空気が冷めた気がした。

恥ずかしくて全身が熱くておかしくなってる筈なのに寒い。

「え、えっと、あの、その」

言葉が出ない。観客の方を向けない。

怖い。さっき一瞬、拍手をくれた観客を見るのが怖い。

彩奈を見るが、彩奈もテンパってるのか、目がウロウロしている。

いや、この空気どーすんの?

途方に暮れていたそのとき、


『あ、あ、あー。マイクテスト中ー、マイクテスト中ー』


急に放送が流れてきた。劇場にも体育館のような放送室があるのだろうか。

てか、今度は何?

しかし、その声は、なんとなく聞き覚えのある声だった。

てか、あの人だ。

声の主は行原に違いない。

え、何やってんの?

事務所の人なんじゃないの?

私の心情など知る由もなく、放送は続く。

『おい、アヤニャンと、えーっと、ハルピョンだったか。お客様を笑わせる芸人ともあろう奴らが、何あたふたしてんだ。恥を知れ、恥を』

突然の放送に、客席もざわついている。

きっと、これがネタの演出なのかどうか気になってるのだ。

正解は私たちにも分からないのだけど。

放送は続く。

『だがヒヨッコ芸人のお前らには、大して期待はしていない。しょうがないから、今から誰でも簡単に面白くなれる装置を、そっちに送る。それでお客様を笑いの渦に巻き込んで見せろ。それが出来なきゃ手ブラの刑に処す』

最後の言葉に観客がどよめく。

「いや、あの、どゆこと?」

つい隣の彩奈に私は聞いていた。

彩奈も首を傾げている。

「て、てか!アニャタは誰!?」

あくまでキャラを維持したまま、彩奈が上を向いて尋ねる。

『俺か?俺はすべての笑いを司りし神的な存在の.....人』

「人かよ」

私は思わずツッコんでいた。

観客の何人かから笑い声が聞こえた。

「!」

そのとき、ふと何かが分かった気がした。

放送は続く。

『だが、俺はお前らのようなアイドルかぶれの幼稚なお笑いはやんねー。俺のお笑いについて来れるか?ついて来れたら、最高のネタを提供してやるよ』

いかにも楽しそうな声色だ。

先程の行原の言葉を思い出す。


"お前に皆の羨望の眼差しが集まることを約束してやる"


行原は今から私たちをさせようとしているのだ。

これが、さっきの約束.....


逃げも隠れも出来ない、ここからが本当のステージ......!!




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る