地獄の始まり
第10話
私は彩奈に背中を押される形で舞台の中心に向かって駆け出していた。どこかで出囃子が聞こえる。
私たちの目の前には、ざっと20〜30人ほどのお客さんがいた。劇場が小さいこともあってか、そこまで人は多くないように見えた。
ただ、ほとんど男性だった。
「どーもー!!」
彩奈が大きな声で挨拶する。
彩奈は舞台の中心に辿り着くと、立ち止まり急に両手を顔の辺りに持ってきて、猫のようなポーズを取った。
「みんなのラブリンキュートなアイドル〜!アヤニャンだよ〜!!」
まさかの急な猫撫で声での自己紹介に私は内心虚を突かれた。
いや聞いてない!!可愛いけども!
よく見たら、彩奈は猫耳のカチューシャを付けていた。
いや、いつの間に!?てか地味にキャラ作り込んでる!
観客の男性陣から野太い歓声が上がる。
そのお客たちに、彩奈は笑顔で手を振っている。いやアイドルかよ。芸人どこいった。
「そしてそして〜!この子が私の新しい仲間!ハルピョンだ〜!」
まさかの紹介のされ方に戸惑う。
いやいや、私にどーしろと?
彩奈を見ると、目で「頑張れ!」みたいに合図を送ってきている。
え、ハルピョンをやれと?
しかし、私は別にうさ耳をつけている訳では無い。無駄にアイドルっぽく花飾りは頭に付けられているが。いやだから、芸人どこ行った?
でも、アヤニャンが猫だったんだから、ハルピョンは、そーいうことだよね?
私は今の今まで腕で胸を隠していたのだけど、仕方なしにその腕を頭の上に挙げた。
「ピョ、ピョンピョン!み、みんな初めまして!は、ハルピョンだピョン.....」
恥ずかしすぎる。ヤバい。早く帰りたい。
てか、何やってんだろ、私。
後悔の念しかない。
しかし、思いの外、観客は盛り上がっており、口笛や拍手が起こった。
だが、恥ずかしいものは恥ずかしい。
これだけの異性の前で、半裸を見せることなんて普通に生きててないし、こんな好奇の視線を受けたこともない。
全身から火が出る思いだ。てか、体感では全身燃えているんじゃないかというほど熱い。
私は頭の上に挙げていた手を、すぐさま胸の前に戻した。
彩奈が拍手が収まったタイミングで話し始める。
「よろしくね〜!ハルピョン!さ、さーてと、早速なんだけど、ハルピョン!な、何してあそぼーか?」
彩奈が上ずった声色で私に話しかける。
明らかにアドリブだ。
なんせネタを知らないのだから。
え、こっから、どーするの?
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