第9話
「え、何でですか?自分でネタ考えてるんですよね?」
思わず聞いていた。
彩奈はバツが悪そうに、そっぽを向く。
「実は、この劇場の放送作家さんがほとんど考えてくれてるんだよね」
いや、だとしても本人がネタを知らないのはおかしい。どんなネタなのだ?
「え、あの分からないままで、大丈夫なんですか?」
「そこは、まー、えーっと.....ノリで」
「歯切れ悪っ!」
ダメだ、不安が増した。
そうこうしている内に、前の組が「ありがとうございましたー」とか言っているのが聞こえてきた。
ヤバいヤバい、次、私らじゃん!
彩奈に連行される形で、舞台袖まで歩みを進める。舞台に差すスポットライトの光が見えた。
心臓がドクドクと脈打っているのが触らなくても分かる。
気分が悪い。苦しい。
やだ、怖い。どーしよ.....
目の前が真っ白になりかける。
しかし、すぐに現実に引き戻された。
「おい!はるさき!」
ふいに肩をポンと叩かれる。
身体がビクッとなる。1センチくらい身体が浮いた気がした。横を見ると、私の隣に行原が立っていた。
「おい、はるさき、もう始まるぞ。蹴られて舞台に放り出されるのが嫌なら、自分の足で歩けよ」
「いや、あの.....」
「それかラリアットでもいーけどな。首痛めるだろうけど、面白いだろ。な、はるさき」
「え、あの......」
「それか、自分から舞台にヘッスラかましても良いかもな。どーもー、はるさきでーす、みたいな」
「いや待って、あの、私....雨宮なんですけど!!?混ざってる!!色々混ざってますから!!てかいい加減覚えて!!」
私がそう言うと、行原がフッと笑った。
「良い声出るじゃんかよ」
「いや、何を暢気な.....!」
でも気が付くと、心臓のドクドク音は小さくなっていた。
あれ?
「大丈夫そうだね!」
彩奈がニコッと笑う。
そのとき、客席から拍手が鳴り響く。
私たちの出番のようだ。
「さ、行くよっ!」
「え、もう行くんですか!」
「当たり前じゃん。楽しみに待ってる人がいるんだから」
彩奈が慣れたようにウインクする。
「大丈夫。楽しんだら良いよ」
彩奈の手が私の背中に触れる。その手にもう一つの手が重なる。行原だ。
「ま、コンビニ行く位の気持ちで行けよ」
「いやそれは無理くないですか!?」
2人の手に背中を押される。気が付くと、私は舞台へと駆け出していた。
スポットライトが当たり、歓声が鳴り響く、輝く舞台へ。
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