第3話

バイト終わり、私は名刺に書かれた住所に来ていた。

そこは雑居ビルの2階のようで、いかにもそれっぽいところにあった。やや古めいた建物で築年数はそこそこ長いように思えた。

だが、それすらも気にならない程、このときの私は有頂天だった。

憧れの芸能界に入れることが出来るなんて!

浮かれすぎだと自分でも思う。だが嬉しいのだから仕方ない。

なんせ、芸能人になってしまえば、会社で働かなくて済む。

を見返すことができるのだ。

私はルンルンで事務所のチャイムを押した。先程聞いた、ダルそうな声で返事が返ってくる。

程なくしてドアが開いた。

行原が目の前に立っていた。先ほどと同じTシャツ短パンのラフな服装だ。私よりも少しばかり背が高いので、目を合わせようと思うと見上げなければならない。

「お、早かったな」

行原が驚いたように言う。

「いえいえ」

「早速だけど、一緒に来てくれ」

「え」

言うが早いか、行原は事務所のドアを締め、鍵を掛けた。

そして、そそくさと階段を降りていく。

突然の行動にキョトンとしてしまったが、一呼吸おいてから私は急いで行原の背中を追った。

行原に追いつき、声をかける。

「あ、あのどこに行くんですか?」

「説明するより、見たほうが早い」

行原は真っ直ぐ前を向いたまま、私の方を見ない。

「いや、やってみた方が早いか.....」

ポツリと行原が呟く。

「?」

どういう意味だろう?

それから5分ほど歩いただろうか。

行原はある建物に入っていった。

その建物は建物名がネオンで輝いていた。

「ここって.....」

建物の名前は『theater SKY-HI』。どうやら劇場のようだった。

「おい」

行原に呼ばれる。

私は気付けば歩みを止めていたらしい。

行原と目が合う。

「早く行くぞ」

闇に包まれ出した世界で、その輝きに誘われるように、私は劇場へと足を踏み入れた。


入口から入ると、スタッフさんが出迎えてくれた。行原は慣れたように軽く挨拶を交わし、お客さん用の通路ではなく、スタッフ用通路に入っていく。スタッフさんに軽く会釈して、その後を私も追った。

「あ、あの!」

「何?」

「もしかして、間近でライブを観させて貰えるってことですか?」

「あー、最初はそのつもりだったんけど....」

行原が振り返る。


「お前、今から出ろよ」

「へ?」


それが地獄の始まりだった。

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