第2話
「アンタ、面白そうだな」
最初、その言葉の意味は分からなかった。
え、どーいうこと?
てか顔が近い。とにかく近い。イケメンならまだしも、こんなどこにでもいる普通の男に興味はない。
「えっと、あの、どういう意味でしょうか?」
「いや、なんとなく」
青年は顔を近づけたまま、答える。
明らかに普通の皮を被った危ない奴だ。そもそもレジで店員に話しかけてくる奴に、ろくな奴はいない。
休憩室で寝ている相棒に助けを借りようか迷っていると、青年がポケットから何かを取り出した。そして、私の前に差し出した。
それは名刺だった。
「俺、一応こーいう者です」
受け取ろうか迷ったが、一向に名刺を引っ込める気配が無かったので受け取った。名刺には、『アゲハ芸能事務所 行原颯太』と書かれていた。
「げ、芸能事務所.....え?」
思わず青年、行原の顔を見ていた。
「あの、えっと、これって......」
あたふたする私を見て、行原が僅かに微笑む。
「そのままの意味で受け取っていーよ」
「いや、そのままって.....」
「仕事何時に終わるの?」
「じゅ、18時まで.....」
「あと1時間くらいか」
レジの後ろの時計を見ながら青年が呟く。
「もし興味があるなら、そこに書いてある住所に来なよ。悪いようにはしない」
話はとんとん拍子で進んでいく。
「え、えーっと、これって、やっぱり......」
私が、その言葉を言うより先に行原は小さく手を挙げた。
「じゃ、待ってるから」
行原はドア開閉時の音楽と共に行ってしまった。
「いやいや......」
開いた口が塞がらない。
これは俗に言うアレである。有名人が竹下通りとかでされるアレである。いや正確には有名人になる前だから違うのか。って、今はそんなこと、どうだっていい。
スカウトじゃん!!
未だ、自分の手の中にいる名刺を見つめる。
現実だ。夢じゃない。平凡などこにでもいる私がスカウトされたのだ。
内から湧き出てくる興奮が抑えられない。
本当に夢じゃないよね?現実だよね?
こんな芋臭い黒髪ショートヘアの女がスカウトなんてされちゃっていいの!?
私は小さくガッツポーズした。
生きてて良かったー!
この退屈なコンビニバイトは今日の日の為にあったのかもしれない!
私は時計の針が早く18時になることを切に願った。
ただ、このときの私は知らなかった。
世の中に、こんな上手い話がある訳ないことを。
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