第14話

「もちろん冒険者として活動するためですが」


 もちろんって……


「家の仕事はどうするのさ」


「問題ありません。部下に仕事をちゃんと振り分けておりますので」


 リシュリューの仕事量って結構多かった気がするんだけど。


「使用人は沢山いますし問題はありません。私の不在で仕事が滞ってしまうほどやわな教え方はしておりません」


 リシュリューは何も言っていないのに俺の思考を先読みして疑問に答えてくれた。


 流石リシュリューだな。


「そっか。でもこの格好は多分違うと思うよ」


 別に忍者が必要なわけではないんだ。俺の場合不意打ちとかではなく正面から戦うのが基本だし。


「そうですか?でしたら不意打ちはどうするんですか?皆さん索敵は苦手ですよね」


「そうかな?私は別に苦手な方ではないと思うけど。森の中で狩りとか結構やっているしね」


「心外ですね。魔法があれば索敵等余裕です」


 索敵が苦手だというリシュリューに対し、2人は納得がいかないようで反論していた。


 ちなみに俺は苦手です。気配とか第六感とか全く分かりません。だって元日本人だからね。


「でしたら私が朝からずっとあなた方を見張っていた事に気付いて欲しいのですが」


「え?」


 誰も周りに居なかった気がするんだけど。どこから見てたのこの人。


「お二人は部屋の天井から、マリア様はそこの木の上から見ていましたよ」


 確かに木の上に居たけど、流石に天井に居たら気付いてると思うんだけど。そこまで抜けてないよ。


「ねえリシュリューさん、それだとあなたが二人いることになってない?」


「はい、2人居ましたよ」


 リザの質問に対し、当然のように答えるリシュリュー。


「「こんな感じですね」」


 リシュリューがそう言うと同時に二人目のリシュリューが現れた。


「これって両方とも実体ですか?」


 2人になったリシュリューに対して興味津々のマリア。


「「ええ。疑いを持つのであれば触れてみてください」」


「それではありがたく」


「っ!」


 マリアは一切の迷いなく胸に触れようとしたので俺は慌てて反対側をむく。


 リシュリューさん。そこはどうか抵抗してください。


「そうですね。これは紛れも無く本物。一体どんな魔法を使ったのですか?」


「「魔法ではありません。分身の術という忍術です」」


「忍術……?リシュリュー様は一体どこでそれを?」


「「本ですね。4年程前にマヤ様がどこかから忍術の本を持ってきて私に渡してきたのです」」


「なるほど。では私にも今度読ませていただけますか?」


「「駄目です。マリア様が忍術を習得なされると非常に面倒なことになりかねませんので」」


 良かった。分身の術を覚えたマリアとか手をつけられそうにないし。


 会話の内容的に流石にもう大丈夫だと思ったので3人の方に向き直す。


「あら、やっぱり見たかったんですか?」


「違うよ!」


 するとまだマリアはリシュリューの分身体の胸を揉みしだいていた。


 流石にそれだけの時間されていたのなら嫌がるとかそういう素振りを見せて欲しい。


 同性でも立派なセクハラだからねそれ。



 しばらく経って忍術トークも終了し、リシュリューが分身の術を解除した音がしたのでリシュリューの方を見て、


「その恰好は違うと言ってしまい真に申し訳ありませんでした」


 と言いながら必死に土下座をした。


 この世界に土下座という文化は存在しないが、多分誠意は伝わると思う。


「頭を上げてください。何をしているんですか」


「誠意を示そうと思って」


「謝るならふざけないでもう少しまともな謝り方をしてください」


 全く伝わっていなかった。今後この世界で土下座をするのは自重しよう。


「あ、すいません」


 俺は慌てて立ち上がり、普通に頭を下げた。


「別に怒ってないですよ。そんなことよりさっさと行きましょう」


 そう言ってるけど少し怒ってません?その視線とか人を見る目じゃないよね?


「とりあえずアレダに行こう。だけど移動手段はどうする?最初の予定だと私が道案内をしてエリックに移動してもらう予定だったんだけど」


 と変な方向に行きかけた場を元に戻してくれた師匠。本当に助かります。


「そうだったの!?」


 だけど当然のように俺が師匠をアレダ領まで運ぶ前提だったことだけは聞き捨てならない。


「そりゃあそうだよ。ホルシュタイン家の馬車を使うと貴族ってバレちゃうし、普通の馬車を乗り継いで行ったら1週間以上かかっちゃうからね。エリックなら1日で行けるでしょ?」


「ま、まあね」


 確かにそうだけども。おんぶは精神をすり減らすから疲れるんですよ師匠。


「だからこんな風に酔い止めの薬を大量に用意したんだけど、流石に3人を背負って移動は厳しいよね?」


 とポケットから木の薄い入れ物を取り出し、中を開けて大量の薬を見せてきた。


 この世界って酔い止めの薬ってあるんだ。しかも粉じゃなくてカプセル型のやつ。


 いくらファンタジーの世界でも苦い物はやっぱり無理なんだね。気持ちはよく分かります。


「確かに3人は怪しいかな……」


 師匠1人でさえ心労がやばいのに3人になったらどうなるか知れたものじゃない。


 3人位余裕だけど、ここは断らせてもらおう。


「3人が難しいのは私達を支える手が足りないからですよね?」


 断ろうとするとリシュリューが理由を聞いてきた。


「うん」


 3人を連れていけない理由ってどう考えてもそれしかないからね。


 皆俺の怪力は知ってるし。


「ではそれを解決したらどうにかなるということですね?」


 リシュリューが何か念押しをするように聞いてきた。


「まあそういうことになるね」


 まさか馬車を借りて俺に引かせようとしてない?


 その恰好にツッコミを入れたのって結構不味かったやつ?


「では」


 リシュリューの指パッチンの音と共に現れたのは時代劇とかでたまに見る偉い人を人力で運ぶ箱みたいなやつ。


 確か駕籠って言うんだっけ。3人が入るためかかなり大きめだけど。


「どこから出したの?」


「忍術です」


 俺の知ってる忍術は何もない空間から物を生み出せる程便利な物ではない気がするんだけど。


「そうなんだ」


 でも先程の事がある手前疑問を持つわけにもいかないので受け入れる。


「これに私達が入ってエリック様に運んでいただければよいのではないでしょうか」


「なるほどね。これなら何とかなりそう」


 この駕籠なら3人が余裕で入れそうだし、体に触れる心配も無いしね。


「ただエリック様のペースだと中で振り回される可能性があるのでマリア様に対策をお願いいたします」


「勿論です。皆様にはベッドの上のような安定感をお届けいたしますね」


「これで解決だね。じゃあ行こうか」


「ねえリシュリュー」


「どうしました?」


 問題が全て解決して、駕籠を持ち上げようとしたタイミングでとあることに気付く。


「持ち上げるための棒が無いんだけど」


 駕籠で一番重要な屋根の上に付いている長い棒が無いのだ。これが無ければ駕籠ではない。ただの小さな箱だ。


「何を言ってるんですか。アレは二人じゃないと使えないでしょう。馬鹿なんですか」


 すると何故か罵られた。


「いやじゃあどこを持てばいいのさ」


「丁寧に下から持ち上げてください。くれぐれも雑に持ち上げることが無いようにしてくださいね」


 それって駕籠である必要ってないよね?普通に木箱で良くなかったかな?


「うん、分かった」


 でもそれを言うと駕籠を戻されて抱えて連れていけってことになりそうなので大人しく従うことに。

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