第13話

「それはそれとして、次のダイエット方法を用意できたよ」


「ほんとですか師匠!!」


 下準備に時間がかかるって言ってたけどもう出来たんだ。流石師匠。


「うん」


「ちなみにどんな方法ですか?」


「それはな、冒険者になって強敵を倒すことだよ」


 強敵を倒す?それがどうして痩せに繋がるんだ?


「最初に痩せようとしてランニングしたことは覚えてるよね?」


「うん」


「それじゃあ結局痩せなかったじゃん。アレってエリックの身体能力ではあの程度の運動じゃ全く負担になってなかったからだったと思うんだ」


「そうだね」


 たった20㎞ではマシマシの肉体が疲れることは無かった。


「ならばエリックが疲れ果てるような負荷の高い運動をしようという結論になったんだ」


「そんなこと出来るの?」


 毎日20㎞どころか200㎞走っても体力の消費はなさそうなんだけど。


「というわけで用意したのがこれです」


 そう言って師匠がポケットから取り出したのは2枚の鉄プレート。


 手のひらサイズのプレートにでかでかとニワトリに似た何かが描かれている。


「これは?」


「アレダ領に入るための証書です!!」


「アレダ領?」


 確かここホルシュタイン領の反対側にある領地だったはず。ただ別に何か運動に丁度いいような場所なんて無かった気がするんだけど。


「うん、これから君はアレダ領に行って冒険者になってもらう予定だよ」


 冒険者、ファンタジーとかでよくあるモンスターとかを狩ってお金を稼ぐ職業の事である。


 今までは貴族としての勉強や騎士団との訓練に取り組んでいたので触れてこなかったが、正直興味はある。


「でもどうしてアレダ領で?」


 ただ、冒険者をわざわざやるために国の反対側にまで向かう必要性があるとは思えない。普通にここホルシュタイン領でやればいいと思うんだけど。


「身分を隠すために決まってるでしょ。エリックは貴族だし、何なら魔族の幹部を倒した注目株なんだから。そんな人が普通に冒険者を始めたら騒ぎになるでしょ」


「確かに」


 見る人が見れば英雄的な立ち位置にあるもんね。


「でも登録するときにエリックって名乗ったら結局同じじゃない?」


「だからこそのアレダ領だよ。ホルシュタイン領からめちゃくちゃ離れているから貴族の人たちはともかくとして平民は顔なんて分からないから偽名でもバレないだろうしね」


「それもそっか。でも偽名で通るものなの?」


 一応ちゃんとした役所みたいなものだし偽名は許されないと思うんだけど。


「そのためのこれだよ。これは国内の人じゃなくて国外の人がアレダ領に入るためのものだからね。リックで登録しておいたよ」


「ありがとう、師匠が言うなら大丈夫だと思うし」


 この世界に来てたった3年ちょっとしか経ってない俺の判断よりも、この世界で15年も生きている師匠の判断に従うべきだよね。


「じゃあ今からアレダ領に行こっか。エリックの両親には既に言ってあるから。魔族との戦いに備えて冒険者として訓練を積んでくるって」


「流石師匠、仕事が早い」


 それから俺は武器や着替えなどの必要な物資を持って玄関に向かった。


 するとそこには両親とマヤの姿があった。


「エリック、怪我だけには気を付けるんだぞ」


「分かってるよ父さん、心配しないで」


 泣いて送り出すかと思っていたけど、今回は意外にもいつも通りの父さんだった。


 ただ目が赤くなっているので昨日は泣きまくったんだと思うけど。


「くれぐれもリザさんを怪我させないように。あなたは怪我しても丈夫だから問題ないと思うけど、この子は普通のか弱い女の子なんだからね」


「分かってるよ。絶対に怪我はさせないから」


 そして母さんは父さんと違い、俺の心配は全くしていないらしい。まあ強いから心配する必要が無いって気持ちは分かるけどさ、一応息子だよ?俺の方をもっと心配してくれないかな。


「がんばってね!」


「うん、がんばってくるよ」


 そして最後はマヤ。凄く可愛い。仕事に向かう父が子供に見送られる気分ってこんななのかな。妹だけど。


「じゃあ、行ってきます」


「「「いってらっしゃい!!!」」」


 そして俺と師匠は家を出た。




「じゃあ一緒に行きましょうか」


「なんで?」


 そして家の敷地を超えた所に動きやすい洋服を着て、杖を持ったマリアが待ち構えていた。


「エリック様が身分を隠して冒険者をなさると聞いたので。やはりエリック様の雄姿は間近で見たいではないですか」


 マリアならその理由で来るのはなんとなく理解できるけど、


「どうして知ってるのか聞きたいんだけど」


 何故知ったのかが分からないんだけど。


「やはり愛の力、ですかね」


「ちゃんと説明して」


 流石にその説明ではぐらかされるほどアホじゃないぞ。


「マリア様がエリック様の部屋に監視用の水晶を配置してのぞき見していたからですよ」


 そう言いながら近くの木の上から飛び降りてきたのはリシュリュー。


 何故か彼女はくのいちの格好をしていた。


「マリア?」


 リシュリューにも色々問い詰めたいことがあるけど、こっちが先だ。


「やはり婚約者としては浮気が心配ではないですか、だからその……」


 としどろもどろに答えるマリア。


「嘘だよね。浮気を心配するどころかそもそもマリアは歓迎派だよね」


 パーティ会場で俺にナンパを強要してくるような人間がする言い訳じゃないよ。


「はい、エリック様がうっかり他の女性と深い交流を始めるかと期待して見ておりました」


 俺がツッコむとマリアは急に冷静に理由を言い出した。理由は全然冷静な人の発想じゃないけど。


「はあ……」


「そうしたらエリック様が冒険者として活動を始めるという言葉を耳にしたので魔法陣で飛んできたというわけです」


「ってことはもしかして……」


 ダイエットに励んでいることがバレた!?


「なんのことでしょう?」


 マリアはすっとぼけた顔をしているけれど、これはどっちだ?


「違いますよ。マリア様はリザ様がエリック様のご両親に冒険者になる説明をしている所を聞いていただけですよ。エリック様の部屋にあった水晶は配置した直後に破壊しておりますので」


 少なくとも部屋に設置したことまでは事実なのかよ。一応まだ婚姻関係を結んでないからね。


 犯罪になるよこれ。まあこの国の法律よく知らないけど。


「なるほどね。大体理由は分かったよ。別に付いてきても良いけど家族は大丈夫なの?」


「問題ありません。エリック様の強さを熱弁してきましたから」


「熱弁って……まあいいけど」


 まあ俺としては一人や二人増えた所で問題ないし。


 それにマリアは結構魔法が強いらしいし、心配しなくても自分の身は守り切れると思う。


「ありがとうございます」


「で、リシュリューはどうしてそんな恰好をしているのかな?」


 一応マリアの件が片付いたのでもう一人の方に話を聞く。

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