第12話

「本当に助かったよ、リシュリュー」


 馬車の所へ向かう最中、助けてくれたリシュリューにお礼を言った。


「いえ、この位当然ですよ」


 大したことはないと謙遜するリシュリュー。


「一人でやってきて僕を迎えに来ている時点で大したことだよ」


「ありがとうございます」


「父さんが先に帰ったのは多分マリアの仕業だとして、リシュリューがここに居るのはマヤの指示だよね?」


 いくら執事に怒られたからといって親バカの気がある父さんが俺を完全において領地に帰るなんて筈がない。


 で、それを見越したマヤが阻止するべくリシュリューを呼び出したんだと思う。


「——そうですね」


 ただの返事なのに少し間があったのは多分正直に話すべきかどうかを迷ったのかな。


「ごめんね、2人が迷惑をかけて」


 本来なら今頃は仕事も終わってゆっくりと休んでいるはずなのに。


「——給料はしっかりと頂いておりますので」


「ありがとう、馬車ではゆっくり休んでね」


「はい」



 馬車に乗った後、俺はリシュリューに膝枕して寝かせた。


 自分で言うのもアレだけど、俺の太ももはそこら辺の枕よりも柔らかいからね。


 これは立場を利用したセクハラでは無いからね、断じて。記憶によると昔は結構やってあげていたみたいだから合法です。




 深夜、家に辿り着いた俺はまだ眠っているリシュリューを優しく抱きかかえて馬車を降りた。


「ここまでありがとう」


「いえ、仕事ですので。それでは」


 運転手は馬車を連れて出発していった。


「とりあえず部屋に連れていかないとね」


 俺は家のすぐ近くに建てられていたリシュリュー用の家に連れて行った。


「失礼しまーす」


 誰も居ないのは分かっているが、小声で挨拶をして小屋に入る。


「相変わらず綺麗な部屋だよね」


 リシュリューは毎日使用人として働いているから疲れているはずなのに、この家は作られたばかりと錯覚するレベルの綺麗さを保ち続けていた。


「多分寝床は二階かな」


 俺は木の軋む音で起こしてしまわないように慎重に階段を上った。


「あった」


 俺はベッドにゆっくりとリシュリューを降ろし、一息ついた。


「一応存在を知っていたけど、凄いよね」


 この家は俺がこの体に転生する前、孤児院からリシュリューを引き取った際に建てられたものらしい。


 6歳の頃に引き取ったは良いものの、家にはリシュリューを泊められる場所が客間しかないが、かといって領地のどこかの家を借りようにも6歳の少女に一人暮らしをさせるのは安全面に問題があった。


 色々困り果てた結果、なら家を作れば良いじゃんという発想を転生前のエリックがしてしまったらしい。


 親バカである父は何故かその案に賛成し、本当に家を建ててしまったのだ。


 流石に真っ当な常識を持ち合わせた母さんに後で怒られたらしいが。


 6歳のリシュリューの為に設計されたこともあり、全体的に小さい。


 そのため今のリシュリューが住むにはちょっとだけ窮屈だと思う。


 それもあって父さんや母さんは定期的にもう少し広い所に引っ越したらどうかと聞いているが、俺たちから貰った大切な家だから離れたくないとのこと。


 本当にいい子だ。俺自身は関わっていないけれど、ちょっと嬉しい。


「っと早く家から出ないと」


 そんな考え事をしている暇なんて俺にはなかった。


 長居しすぎて床に穴が開きましたとかは洒落にならない。


 俺は足音に最新の注意を払い、家から無事出ることが出来た。


「俺も部屋に戻って寝ないとね」


 多分後3時間くらいで起こされるだろうけど、少しでも寝ておかないと。





 そして朝。


「おはよう、おにいちゃん!」


 俺はマヤの元気な声で起こされた。


「おはよう、マヤ。今日はどうしたの?」


 普通貴族は自室で朝食を食べるので、マヤが朝から部屋に入ってくることは稀だ。


「昨日の話が聞きたかったんだ!リシュリューちゃんと帰ったんでしょ?」


「そこ?パーティの話じゃなくて?」


「うん!」


 ただの帰宅にどんな要素があるというんだ。


「普通に馬車に乗って帰っただけだよ」


「何もしんてんはなかったの?」


「進展?別にいつも通りの関係だよ。強いて言えばマリアを止めてくれたくらい」


「え!?マリアに何かされそうになったの?」


 マヤは心底驚いた表情を見せる。リシュリューから話を聞いていなければ何の疑いも持てずあっさり騙されるところだった。


「ちょっとね。詳しいことは言えないけど」


 既にそういう言葉は知ってそうだけど、まだ8歳だから一応ね。


「リシュリューちゃんにはかんしゃだね。まさかパーティがおわってからしかけてくるとはおもわなかった」


「そうだね。助かったよ」


「ありがとう、おにいちゃん!パーティとかのはなしは皆がいるときね!」


「うん、じゃあね」


 マヤは元気よく部屋から出て行った。


「聡明なあの子も流石にマリア様には敵わないんだねえ」


 部屋から出て行った後、ご飯を持って待機していた師匠がそう言った。


「え?今回はマヤが一枚上手だったと思うけど」


 マリアから俺を守るというミッションを達成したわけだし。


「んー、そう思うんならそれでいいと思うよ」


「どういうこと?」


「それは自分で考えて」


「って言われても」


 リシュリューがマヤの仕業だって言ってたんだからそれは間違いないしな。まさかマリアにはまた別の目的があった……?


 俺は昨日来ていた服を念のためまさぐってみるが何もない。


 全く分からない。お手上げだ。

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