第8話

「その程度か」


 もろに攻撃を食らってしまった俺を見て余裕そうな表情を見せる女魔族。


 まだ本気すら出していないであろうにこの状況だ。かなり不味いと言える。


 しかし、気になったことが一つあった。


 お腹に攻撃を食らったはずなのにかすり傷すらついておらず、何なら痛みも無いのだ。


 自分で弾くことすら出来ない攻撃を受けて痛くないなんて事がありえるだろうか。


 もしや……


「何をしているのだ?」


「ちょっとね」


 俺は地面の砂を水無しで強引に固め、女魔族に投げつけた。


「届いてすらおらぬではないか」


 やっぱりか。圧縮が足りていない。


 スピードに関してはいつも通りだけどパワーがかなり落ちているみたいだ。


「もしかして、食事制限のせいかな」


 体重を落としたからその分パワーが落ちたのかもしれない。でもそんなことあるのだろうか。


 鶏肉って低脂質だけどたんぱく質は多いんだから筋肉は減らないと思うんだけど。


 ってことは体重が不健康な形で非マシマシになったからパワーも非マシマシになったと考えるしかなさそう。


「何をぶつくさ言っている!食らえ!」


 俺が色々と考えていると、女魔族が痺れを切らしたみたいで大量の氷塊を俺の周囲に展開し、放ってきた。


「とりあえず避けるしかないよね」


 当たったら吹き飛ばされてしまう以上、全力で回避する以外に選択肢は無さそうだ。


「何!?」


「動体視力はマシマシのままみたいだからね。とりあえず倒れてもらうよ」


 俺は出来る限りのスピードで動き、女魔族の背後に回って剣で切った。


 パワーは落ちていたけれど、防御力があるタイプでは無かったのでそのまま倒れてくれた。


「エリック様が魔族を倒したぞ!!!」


「俺達も片付けるぞ!!!」


「うぉぉぉぉ!!!!」


 それに呼応して騎士団の方々の士気が上がったようで、みるみるうちに魔獣が倒されていった。




「お陰でこの領地は守られた。ありがとう!」


 魔族と魔物の群れを殲滅したことを団長とライラと共に報告した所、父に感謝された。


「真っ先に現場に駆けつけて魔物を食い止めてくれていた騎士団の方々のお陰です。出来れば報酬は全て騎士団の方々にお願いします」


 俺がボスである魔族を倒したのは間違いないのだけれど、騎士団の方々が居なければパワーが足りない俺ではあの数の魔物を食い止めることは出来なかった。


「魔族の進行を食い止めていたのは事実だが、悔しいことに私とライラでは魔族を倒す事が出来なかった。エリックが居なければ全滅し、領民に被害を出していただろう。それでは領地を守る騎士団として失格だ。だから報酬を貰う立場にはない」


 しかし団長は否定してきた。気持ちは分かる。でも、報酬が俺に渡ってしまうとパーティが発生する可能性があるんだ。


 パーティは良い飯を食べる会。良い飯ということはカロリーが豊富。その上食事量を制限しようにも主役だから食べないという選択肢は取れず、延々と食べさせられる。つまりリバウンド確定。


 なんならリバウンドどころかマ○コ・デラッ○スを超えてしまう恐れすらあるんだ。生きている感じ体重減少には制限がかかっているみたいだけど太る方には制限が無いみたいだし。


「エリック、お前は良い子だな。分かった。騎士団の皆には報酬を約束しよう」


「良いのですか?我々は魔族を倒すことを出来なかったんですよ?」


 報酬を貰うことに躊躇いを見せる真面目なライラ。いいから貰っといてください、俺の為に。


「それでも身を張って我々を守ってくれたんだ。仕事は果たしている」


「ですが……」


「これは命令だ。断ることは許さん」


「分かったよ」


「はい、分かりました……」


 渋る二人を見て、父さんは強制的に報酬を与えることにした。良いぞ、父さん。


「そしてエリック。お前にも報酬をやらないとな」


 駄目だぞ、父さん。俺に報酬は要らないから……


「私は構いません。将来領主になる者として当然の働きをしたまでです」


「そうか、でも報酬は与えるぞ。領主としてではなく、父として報酬を与えたいからな!よく頑張ったエリックよ!よーしよしよしよし!!!!!!」


 領主の顔から一変してバカの顔になった父さんは俺の頭を嬉しそうに撫で始めた。


「ちょっと、父さん。二人の前だよ!?」


「良いじゃないか。悪い事じゃないんだから」


「はあ……」


 一体俺は何の羞恥プレイをさせられているのだろうか。


「そうだ!今夜はパーティを開くぞ!騎士団の皆を連れて広間に来てくれ!」


 更に激太り確定イベントが発生しちゃったよ……


 わざわざこんな平和な領地を狙って攻撃してきた魔族たちを一生恨むよ。




「相変わらず不思議な体質だねえ」


「ほんとだよ全く」


 ホルシュタイン家と騎士団員全員で行われたパーティでは当然の如く大量の飯が出された。


 パーティの主役だった俺は延々と食事を渡され続け、ジロリアンとして全て残さず完食し続けた結果、パーティ終了時には元のマ○コ・デラッ○ス体型に戻ってしまっていた。


 リバウンドするのは分かるけど、食べている最中に脂肪がついて太っていくとは思わなかったよ。みるみるうちにパツパツになっていく洋服を見るのは恐怖だったよ。俺の体は何を消化して何を吸収しているんだ。


「まあ、今回に関しては太り直すつもりではあったから良いんだけど」


 パーティが嫌だったのはマ○コ・デラッ○スを超えるかもしれないって懸念があったからで、少しずつ食事量を増やすなり太る食べ物を取るなりで少しずつ戻す予定だった。


「太り直す?エリックは痩せたいんだよね?」


「うん。でも、あのやせ方だと色々と不都合な点があったんだ」


「不都合な点?」


「そう。今回のやり方で体重を落とすことは出来ていたんだけど、戦闘に支障が出るレベルでパワーが落ちていたんだ。痩せたいのは本当だけど、戦闘力を落としたくは無いんだ」


 今後防御が固い敵が出てきた際に対処できなくなるのが怖い。それに、力が無かったら攻撃を避けるか受け流すしかなくなるので人を守って戦うのが難しくなる。


「なるほどね。馬鹿みたいに強いってのはエリックの魅力の一つだからそれを失うのは痛いね」


「というわけで力を落とさずに痩せる方法をお願いします。師匠!」


「うーん。色々と考えてみるからしばらく待ってくれる?」


「分かりました!」


 流石の師匠でも次の案がすぐに出てくるわけもなく、思いつくのを待つことにした。

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