第9話

 それから1週間後、俺は父さんと共にソレナ帝国の王都ソレカに向かっていた。


 というのも、父が国王に魔族の討伐報告した所、俺の倒した魔族が魔王軍幹部だったことが判明し、国王から直々に表彰されることとなったのだ。


「いやあ、私は嬉しいよ。エリックが国王様に認められるだなんて……」


「大げさだよ父さん。幹部といっても四天王では無いんだからさ」


 魔王軍幹部と言っても魔王の次に偉いわけではないらしく、その上に四天王という存在が居るらしい。


 幹部が居るのに四天王も居るのは変な気もするけど、そうなっているのだから納得するしかない。


 ちなみに幹部は27人いて、その内の1人があの魔族だったらしい。


「それでも偉いものは偉い!」


「ほら、着いたみたいだよ。とりあえず王様の元へ向かうよ~」


 馬車が王城の前に着いたことを口実に無理やり話を切った。



 そのまま王城内に入り、役員の人に案内されて王の間へ入った。


「よく来てくれた。イヴァン・ホルシュタイン、そしてエリック・ホルシュタインよ」


「「はっ」」


 俺は予め言われていた通り、短く返事をして跪いた。


 目の前に居るのが国王のアエズトリ・ソレナらしい。60代と聞いているが、鍛え上げられた肉体を持ち、今も現役で剣を持ち前線で戦っていそうな見た目をしている。


 しかし事前に父さんから聞いた話だと国王は風魔法による長距離狙撃を得意とした魔法特化らしい。


 そして今は歳のせいで眼が悪くなり狙撃が出来なくなったから戦場に長らく立っていないと聞いている。


 なのに何で筋肉もりもりなんだよ。俺にその良い体を半分くらいくれよ。多分俺の方が運動量は多いんだからさ。


「面を上げよ」


「「はっ」」


「今日呼んだのは他でもない。魔王軍幹部、イッコを倒した褒美を与えるためである。エリックよ。お主は何を所望か?」


 当然一番欲しいのは当然痩せる方法である。が、そんなものを国王が渡せるわけが無い。


「我々の領地の騎士団に使わせるための新しい武器と防具を頂きたく思います」


 というわけで事前に決めておいた物を頼むことにした。


 先日の戦いで人的被害は出なかったものの、イカやタコのような海の生き物を斬ったせいで武器や防具が全体的に生臭くなってしまっていた。


 洗えば一応使う事が出来るだろうが、折角なら最新の良い武器に一新して強化した方が色んな意味で良いだろうしね。また領地に魔族が攻めてこないとは限らないし。


「自分の為では無く領地の為か。イヴァンも素晴らしい息子を持った者だな」


「はい、私には勿体ない程の最高の息子です」


「将来が楽しみだな。良かろう、レモマ騎士団の全員に行き渡る量の武器と防具を至急送らせる」


「ありがたき幸せ」


「ではこれにて終了、と言いたいところだがもう一つ話したいことがある」


「はい、何でしょうか」


「成人パーティについての話だ」


「はい」


 何だろう。代表挨拶でもしろってことかな?


「本来であれば今から4カ月後に開かれるのだが、2週間後に変更しようと考えている」


 え!?ちょっと待ってよ。まだ1gも痩せてないんですけど!?!?


「それはどうしてでしょう」


「ホルシュタイン領に魔王軍幹部が攻めてきたという事は、魔王軍が進軍の準備を済ませたという事に他ならないからな」


「では中止にしたら良いのでは?」


 もしくは延期。太ったまま行きたくないよ俺。


「お主の考えも理解できる。実際、宰相等も同じ考えだったからな」


 だよね。危険だと考えるのならパーティしている余裕なんてないよね。


「しかし、あれは同世代の貴族のみで集まることの出来る人生で唯一の場だ。その機会を奪いたくはないのだ」


 確かに成人パーティ以外だったら同世代の貴族だけではなく様々な年齢層の貴族が居るもんね。


 国王は同世代のみで集まるパーティを最初で最後の練習場所と考えているのかな。


「そうなんですね」


「それにいつ攻めてくるか分からないのは事実だが、魔王軍はお主の活躍で全滅させられたことを踏まえて作戦を練り直しているだろうからな。早くても次に攻めてくるのは1月後だろう。そのため2週間後であれば問題なく出来るだろう」


 筋は通っていなくも無いのかもしれないけれど、個人的にはやめて欲しい。俺に痩せるための時間をください。


「そうかもしれません」


「というわけで2週間後に成人パーティとなる。急な変更で申し訳ないが、許してくれ」


「はい」



 そしてそのまま謁見は終了し、馬車に乗って帰ることに。


 帰宅中父さんはずっと俺が自分の為ではなく騎士団の為の報酬を貰ったことに感激していたが、俺はダイエットが間に合わないことに悲しさを覚えていた。


 一応幹部を倒したことで評判は良くなるだろうけどさ。マリアの婚約者として、リシュリューの主人としてふさわしい人物に近づくけどさ。


 俺は痩せることで近づきたいんだよ。チートではなく、努力して達成したいんだよ。




 帰宅後、


「というわけで期限が壊れました」


 4カ月もあった期限がたった2週間に縮まってしまったことを報告した。


「そっか…… 上手く痩せさせることが出来なくてごめんね」


 それを聞いた師匠は凄く申し訳なさそうな顔をしていた。


「いや、師匠が悪いんじゃなくて俺の体が悪いんだよ」


 師匠はかなり頑張ってくれたし、的確なメニューだったと思う。俺じゃなかったら絶対にダイエットに成功していると思う。


「でも痩せさせるって言ったのは私だから」


「師匠は頑張ってくれた。それだけでありがたかった。わざわざ僕の為にホルシュタイン家の使用人になってくれてさ」


 普通仲の良い友人の為とはいえここまでやってくれる人は中々いないと思う。


「本当にありがとう、感謝してる」


「別にただ働きじゃなくてお金は貰っているから。なんなら普通に働くよりも良い給料を貰ってるし」


「専属だから当然だよ。その分大変なんだから」


「それもリシュリューが助けてくれてたからね」


「それでもだよ」


「だから寧ろ感謝するのは私。こんな割の良い仕事を与えてくれてるんだし。そんな私はその分最後まで仕事に責任を持つ位はするべきだと思うんだ」


「ってことでさ、エリックが完全に痩せるまで責任を持って付き合わせてもらえるかな?」


「良いの?」


「勿論。でも給料は要らないよ。これは私のエゴだからさ」


「エゴって……」


「だからよろしく!」


「う、うん」


 そして師匠は成人パーティを過ぎた後も痩せるために頑張ってくれることになった。


 流石に無給で働かせるわけにはいかないので、普通の使用人と同じレベルの給料を払うことに無理やり同意させた。

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