第7話
「流石エリックだ!そんなに強力なモンスターを狩ってくるなんて。しかもそれは領民の為だなんて。私はこんなに素晴らしい息子がいてとても幸せものだ……!」
「エリックの考えていることは分かりました。ただしくれぐれも安全には気を付けること」
オオトベンバードを持ち帰り、俺は両親に事情を説明した。すると母さんは冷静に受け入れてくれたのだが、父さんは無駄に感激し涙を流しながら俺を褒めたたえていた。
大げさすぎるだろこの人。
「今日は皆でエリックの狩ったオオトベンバードを食べるぞ!」
それから父さんは料理人に依頼し、オオトベンバードを使用した料理を使用人も含めた全員で食べることに。
これで不味かったら嫌だなと思ったが、ちゃんと美味しくて使用人達からもかなり好評で、狩りの方針をしっかりと見つけられればホルシュタイン領の特産品にすることも可能だと確証を得られた。
それから俺と師匠は毎日狩りに出かけ、オオトベンバードを食べ続けた。
その結果、オオトベンバードの効果なのか単純に脂肪を抑えた食事が出来たからなのかは分からないが、朝食だけを大きく制限していた時よりも大幅な減量を実現した。
ちゃんと体重を計測しているわけではないので具体的な体重は分からないが、マ○コ・デラッ○スからサ○ドウィッチ○ンの二人より少し太い位まで痩せた。
「おにいちゃん、すっかりやせちゃったね」
その成果もあってか、マヤと遊んでいる最中にそんなことを言われるまでに。
まだまだ太ってはいるのだが、子供1人分くらいの脂肪が落ちてしまったので流石に家族や使用人に痩せ始めたことがバレている。
大半の人が痩せたことに対して好意的なのだが、マヤは減ってしまった脂肪に対して名残惜しそうにしていた。
「そうかな?」
まだ痩せへの一歩を踏み出しただけなので、一応意図的に痩せたのではないという体を取っている。まあマヤには見抜かれていそうだけど。
「まえはもっと大きくてやわらかかったもん」
そう言いながら俺のお腹をさするマヤ。小さい子にとってはイケメンよりも巨漢の方が好きだよね。
「でも将来の事を考えたらこっちの方が良いんだよ。ごめんね」
マリアの夫として、リシュリューの雇用主として、侯爵家の跡継ぎとしてふさわしいのはだらしない肉体ではなく引き締まった肉体だ。
俺はマシマシな身体能力以外は平凡だから、少しでも出来ることはしておきたい。
「急げ!武器を取ったものから順に向かってくれ!」
「絶対に一人で行くな!最低でも五人組を作ってから行け!」
マヤと話していると、外から騎士団の方々の大きな声が聞こえてきた。声が聞こえること自体は日常茶飯事なのだが、今回は鬼気迫るというか、非常に焦っているようだった。
「マヤ、ちょっと待っててね」
「今何が起こっているのか分かる?」
俺はマヤの部屋から出て、近くを通りすがった使用人に事情を聞いてみることにした。
「詳しいことは良く知りませんが、海から魔獣と共に魔族がやってきているみたいです」
「それは本当か?」
「はい、恐らく。騎士団の方々がそんなことを話していました」
「分かった。ありがとう」
魔獣は魔法またはそれに準ずるものを使用できる生物。とはいってもこの世界に生きる大半の生物が魔獣だし、最近狩りまくっているオオトベンバードも身体能力を底上げする魔法を使っているから魔獣だ。
だから別に魔獣が現れたことに関しては特に問題は無い。
それよりも問題は魔族の方だ。
俺たちの住むソレナ帝国がある大陸とはまた別の大陸で生きているのだが、人間よりも遥かに多い魔力を保有しているらしい。
身体能力は人間よりも低いらしいが、魔力で勝る魔族は全体的に戦闘能力が高く、人間の事を見下しており、敵対関係にある。
そんな魔族がこの領地を襲ってきたとなれば騎士団の方々が大きな被害を受ける事は確実だ。
「ごめん、マヤ。ちょっと魔族を倒しに行ってくるね」
だから俺が加勢しなければ。
「おにいちゃん、大丈夫なの?」
「勿論。俺は最強だからね」
「そっか。絶対かえってきてあそんでね!」
「うん、絶対帰ってくる」
「じゃあ行ってらっしゃい!!」
「行ってきます」
俺はオオトベンバード狩りの為に部屋に置いていた剣を手に取り、全速力で海の方へ向かった。
「矮小な人間が我を倒せると思うな!!」
「皆は魔獣を倒す事だけに専念しろ!!領民の為に、絶対に一匹も通すな!」
「はい!!」
浜辺に辿り着くと、団長とライラが女魔族と、他の人たちはイカやタコのような魚系の魔獣と戦っていた。
「食らえ!」
「ライラ、俺が止める!お前は攻撃に転じろ!ふんっ!!!」
「それを止めて見せるか。しかし、二発目はどうだ?」
「二発目だと!?ぐあっ!!」
「団長!?!?」
「我との戦闘中によそ見とはいただけぬな。ほれ」
「しまった!くはっ!!」
魔獣の方はある程度対処出来ているようだったが、女魔族は相当強いらしく、団長とライラの二人がかりですら相手になっていなかった。
「大丈夫ですか?」
俺は女魔族の放った水の弾丸に吹き飛ばされた二人を受け止め、地面に座らせた。
「なんでお前がここに!」
「エリック!!ここは危険だ、逃げろ!!」
2人は目の前の相手を倒せないと理解しつつも、俺を守ろうとしてくれているらしい。
「怪我人二人はそこで見ててください」
「「エリック!!」」
「大丈夫です。今から倒してきますので」
俺を引き留める二人の声は無視し、女魔族の元へ向き直る。
「人間、たった一人で我に立ち向かおうとするか」
「一人で十分だからね」
マシマシのステータスがあれば恐らく倒せるだろうし、俺が倒せない相手ならそもそも全員倒されてしまう。
「そのだらしない肉体で防具すら装備せずに剣で戦おうとは。舐めたものよな」
女性からのだらしない肉体というワードは心に刺さるからやめてください。
一応これでも痩せたんだよ……
「やあああああ!」
俺はだらしない体を指摘された恥ずかしさを誤魔化すために声を出して殴りかかった。
「その体で動けるのか。しかしそのスピードなら先程の人間と変わらんぞ!」
女魔族は真っすぐ突っ込んでくる俺の進行方向に合わせてバランスボール位の氷塊を撃ちだしてきた。
「なんのこれしき!って!?」
俺はマシマシのパワーで氷を弾き飛ばそうとしたが、予想外の衝撃に耐えきれず吹き飛ばされた。
「それ」
女魔族は飛ばされた先に追加の氷塊を放ってくる。
「うっ!!」
避けられないと判断し、強引に弾き飛ばそうとしたがそれは叶わず、腹に直撃した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます