015. 剣術指南を受けました
「そうだ!君に剣の授業したげるよ!」
縄を解いていると、突然、エレットが騒ぎ出した。
「は?」
「筋はいいのに技術がないからねぇ、君は。だから、僕の剣術を教えてあげるよ。」
「ありがたいんだが、別に『マスター!これは受けるのじゃ!絶対受けるのじゃ!受けなかったら絶交じゃぞ!』
『うるせえ!穴に放り込むぞ。』
『うう………それはやめるのじゃ。』
「僕、剣は得意なんだけど。なんなら、手合わせでもする?これは勝負でも挑戦でもないから、君が断るならこのまま目を瞑って通すけど。」
どうだろうか。ここから出たところでどうやって生計を立てるか考えた時に、剣術を教えられる依頼があったことを思い出し、それならアリかもしれないと思った俺は、
「頼む。お前の言う『剣術』を、俺に教えてくれ。」
頭を下げた。
「うんうん。じゃあ、頭あげて。で、剣はこれ。はい。」
そう言ってエレットは俺に木剣を放り投げる。
「よし。【
「うん。あ、それってさ、魔剣かなんかの類かな。霊体ごと剣から引っ張り出すなんて凄いね。にしても……クリュサールってどっかで聞いたことあるんだよなぁ……。ま、いっか!じゃ、行くよ。3本先取ね。イレーヌ、審判お願い。」
言うが早いか、俺が瞬きをした瞬間、目の前に木剣があった。
「これで一本。」
そのまま振り抜かれた木剣は俺の腹に当たる。やはり痛みは感じなかったものの、そのまま吹っ飛ばされてしまう。
「反撃しないとダメだよー、君の技量を測るテストなんだから。しっかり防ぐんだよ。」
反撃しようにも、コイツの攻撃が見えないから防ぎようがない。そもそも、自分が振った剣すらまともに見えない不死者が、それと同等……いや、それ以上の速度の剣を見れるはずがない。
「次は、ここ。」
ドシュッ!と音がして、肩に剣が振り下ろされる。
「固いねえ、君。でもね、攻撃を受けてるだけじゃダメだって言ってるでしょ?」
受けているのではない。受けさせれているのだ。反撃などさせないとばかりの剣戟を、致命傷になる部分だけを受けることしかできない。守護者は人間ではないのだろう、一向に剣の速度が落ちない。
「筋はいいんだけどねぇ……。目がまず追いついてないか。まあ、10点中2点くらいかなぁ。ま、剣も扱えてないみたいだし。じゃあ、次は僕の方に打ち込んでみて。全力で、いいよ。」
こいつなら、俺の全力を受けられる。今、そう確信した。こいつは、俺なんか足元にも及ばない、最高の剣士。力任せに剣を振るうだけの俺が敵うような相手ではないのだ。
「っオラァッ!」
雄叫びと共に、彼の頭上から木剣が振り下ろされる。
ニコニコと余裕を崩さない笑顔のエレットは、向かってくるその剣を砕き、彼の腹部に蹴りを入れる。
「うん。君は育てがいがありそうだ。」
彼は吹っ飛んで行く。
その日から、約一週間。休みない剣の練習が幕を開けるのだった。
「じゃあ、まずは素振りね。一万本振っといて。その中で僕が矯正するから。」
俺は無言で剣を振り始める。
「あーだめ。ブンブン振るんじゃない。頭の後ろからこうやって出して、体の前で止める。あとはブレないように真っ直ぐ、力はあんまり込めないで。」
俺が剣を振る度にどこが駄目なのかを伝えてくるエレット。3000回振り続けても、未だにダメ出しが止まらない。正直なところを言うと、上達しているのかさえ分からない。だが、一度始めたことはやり通せと、どこかの誰かに教わった。誰かは分からないし、きっともう思い出せないけど。それは大事なことだから、俺はエレットを信じる。コイツが騙していた時?そん時はそん時だ。今は信じねえとだからな。
「うん。素振りは一旦おしまいかな。」
エレットが言ってきたことを頭の中で繰り返しながら素振りを続けていると、6000回を突破したあたりでエレットがそう言った。
「一万本じゃないのにか?まだ6000本じゃぞ?のう、マスター。」
俺自身数えているわけじゃなかったけど、クリュサールが数えていたから今わかったのだった。
「うん。もう、素振りだけなら完璧だよ。横は今の状態のまま少しこうやってやるだけだしね。そうだなぁ、君が不満なら少しやって見せようか。あー、えっと。なんて言うの?」
「俺か?俺は名前はないぞ。ペルデレは一応あだ名だしな。」
「そっか。じゃあ、君は弟子くんね。はい、弟子くん、真似してやってみて。」
「別にどう言われようと関係ないが……こうか?」
動きを真似る。決して、【
「うんうん。ね、だいじょうぶだったでしょ?弟子くん、ほんと才能の塊だよねえ。これで魔法文字も網羅してるんだからね。あんなミミズがのたうったみたいな文字、僕読めないからね。」
「簡単なのに覚えようとしないだけでしたよ、エレットは。頭はいいのに。」
「僕の頭は剣でいっぱいなので、これ以上頭に入りませーん!」
「こういう人なんですよ、エレットは。興味ないことにはとことん興味を示さないんです。」
ようするに、剣が好きということだ。好きなものがあるだけマシだ。
「でもね、僕だって一個は魔法使えるんだよ?」
そう言って、指先にそれはそれは小さな炎を作り出す。
「え、なんですかその小さな火。火おこしでもするんですか?」
「僕、剣が本業だから魔法使えるだけで褒められるべきなんだけど……?」
剣の師匠は、情けない声でそう言った。
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