014. ぐるぐる巻き宙吊り男
「なあ、お前らって、ここに来る前はなんだったんだ。」
ドートルの、『生前』という言葉。俺はそれがずっと気になっていたのだ。
「わたしたちですか?」
「そうだけど。まあ,嫌なら言わなくても……。」
「私たちはパーティーを組んでいたんです。これから会うエレットも、アルカもドートルもみんな、私と一緒に迷宮探査をした仲間でした。」
今は迷宮の守護者なんていっているあたり、何かあったのは察せたが、それ以上のことは分からなかった。何も話すことがなくて暇だった俺は、
「それで?」
と続きを促した。
辛そうに語るイレーヌ。だが、彼女が話し始めたのだ。俺は彼女が話を止めるまで付き合う。
「私たちは、ある真実に到達しました。それはとても理不尽で、私たちはどうしてもそれを許せなかった。でも、わたしたちでは解決することも、解決策を見出すことすらもできませんでした。そして、私たちは殺された。
「そのマスターっつうのは、一体なんなんだ?お前らは死んだんじゃねえのか?」
死んだ人間を生き返らす……まあ人間のまま、とはいかねえみてえだが。命を再生するなんて、それこそ神とか言う奴しか……。
「分かりません。私たちを苦しめた理不尽も、
「今は、どんな種族に分類されるんだ、お前らは。」
「分かりません。いえ、ないのかもしれません。私たちは、生きていないのかもしれません。」
「……。」
一体その理不尽とは何か。分からないにしろ、こいつらが解決出来てないなら、問題はどこかにあるのだろうか。
「っと、もう着きましたね、95層。話はまた今度にしましょう。」
「やあ。」
ノヴァ迷宮第九十五層、その主は。
「突然だけど、助けて。」
何故か天井から吊られていた。
「お前が、エレットなのか?」
「そうだけど、一先ずロープ切ってくれないかな……。」
身体中ロープで巻かれているので、彼は身動きが取れていないようだった。このままロープごと切り刻んで勝つのも一つの手かもしれない。……戦うの、面倒臭いし。
『マスター、それはゲスいぞ。…‥戦うのめんどくさいのは、わかるけどのぅ。』
『分かるなら止めるなよ。こいつ、倒すのめんどいオーラが出てるから、今のうちに……。』
間違いなく、手練れ。巧妙に隠してはいるが、下手をすれば俺よりも魔力量が多い。身動きが取れないうちに殺す方が楽なのはすぐに理解できた。
「ね、ねえ?僕、縄でぐるぐる巻きにされて吊るされているから、身動き取れないんだけど?殺気が凄いんだけど?ね、ねえ?やめよ?頼むからさ……。」
「……。分かった分かった。分かったから俺を浄化しようとするのをやめろ、イレーヌ。ま、効かねえけどな。」
笑いながらそう答えてやると、多少だが魔力放出量が上がった。
「……。」
俺を睨んでいる。その視線が険しくなるにつれ、どんどんと魔力の放出量は上がっていく。
「オイ、無言で全力出すのやめろ。」
「……。」
「ねえ、僕のことを忘れてない……?」
「「うるさい!」せえ!」
怒り狂ったイレーヌに魔力弾をぶつけて倒す。殺傷性はないがちょっと痛いはずだ。魔法を撃つのはやめるだろう。
ヒュッと魔力弾を飛ばすと、ベシッと音がして。
「あうっ。」
頭に直撃して尻餅をついた。……後で少し言われそうだな。
「僕の扱い、酷くない?無視?」
そんなことをエレットが言い出したので、俺はジャンプしてクリュサールでロープを切る。その瞬間、下でドサッと何かが落ちる音と、地面に叩きつけられた衝撃による呻き声が聞こえた。
「うぅ……。守護者をぞんざいに扱うなんて……。あ、ぐるぐる巻きにされてるから、縄も切ってくれるかな?」
自分は魔力で体を支えながらゆっくりと地面まで降りていき、彼を拘束する縄を解く。
「ありがと。やっと自由だ。」
「なんで縄で括られていたんですか。」
ふー、と息をついたエレットは、
「実は……。」
と,深刻そうな顔をして続ける。
「
返ってきたのは、なんとも間抜けな回答だった。
「なんだそのアホな理由。……イレーヌ、蹴るな。泥がつく。」
「美味しかったから食べたって……。なんて幼稚なんでしょうか。…‥ペルデレさんは私のお尻が汚れているのは構わないんですか?」
どうやら尻餅をついた時に尻の部分が汚れたらしい。
「ったく、仕方ねえな。【
「へえ、魔法も使えるんだ。」
正座させられたエレットが俺の魔術を見てそう言った。
「ああ。イレーヌから大体の魔術体系は学んだしな。魔術文字も読める。」
まだ読めない文字もあるが、大体の魔術文字の解読はできるようになった。文字によってその場その場で必要な効果を付与する魔術文字を利用するという方法のおかげで、魔術の暗記をする必要がなくなったのがいい点だろう。どれだけの魔術文字を付与しても使用できるほどの魔力を持つ自分に少し怖さも感じるが。
もちろん、一度魔術行使をすればあとは【
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