013. 「イセカイ」とアルカ


守護弓兵アーチャー・アルカ。否、守護隠者ニンジャ・アルカだ!挑戦者よ、勝負だ!」


「何言ってるんですか?あなた、弓はどこやったんです?」


「ニンジャ?」


目の前にいる少年の「ニンジャ」という言葉に興味を持った俺は、そう聞いてみた。


「ニンジャに興味ある?格好いいよね、ニンジャ!」


まるで、同志ができたとばかりに、近寄ってきて喋りまくる目の前の少年。


「それを知らないから聞いてるんだが。」


「ね、ね。これ見てよ。この動き!すごくない!?ギュインってなって、グワって!」


俺の話を聞く気はないようだ。俺は諦めて少年が振り回す板状のものを受け取る。


「!?なんだこの板!絵が動いてる!凄い!」


金属板のようなものに描かれた精巧な絵。しかもそれが動いているのを見て、俺は興奮した。だが、


「そ、そっち……?」


アルカと名乗った少年は何故か変な目で俺を見ていた。


「どういう魔術を使ったんだ!?絵を動かすなんて、どれだけレベルの高い魔術だよ!」


別段、魔法が好きって訳でもないが、これは本当に凄い。


「いや、その媒体じゃなくて絵の動きを見てほしいんだけど……、まあ確かにこれも凄いよね。タブレットって言うんだけどさー、マスターがくれてね。ここって暇だから、こういう暇つぶしの道具があると本当ありがたくって。でね!この、【ニホン】のニンジャが、もうカッコよくってさー!」


「ホントにすげえな……ハッ!あ、えと、つまり、『ニンジャ』が格好良かったので真似してるって事か?」


「ううん、僕は真似なんかしてないよ。僕はもう本物のニンジャさ!」


弓兵アーチャーと聞いていたんだが?という目をイレーヌに向けても、『私に言われても』という目しかしてくれない。


「で、君は挑戦者でしょ。ニンジャの僕が相手にしたげる!」


「ただただ矢を避けるだけとか面白くもねえしな。いいぜ、相手になってやる。」


クリュサールを構え、俺は戦闘態勢に入る。


「ふふふ。僕のニンジュツ、見切れるかな?」


途端、超高密度の魔力がアルカを覆い隠し、居場所が特定出来なくなった。


「……忍術と言うか、初っ端から魔術ではありませんか?」


「‥‥それには同意する。」


『右に同じくじゃ。』


ニンジュツとは一体なんなのか、全く分からない。さっきの絵も、動きしかしていないし。









分からない。何故不可避の一撃をさも当然のように避けているのかが。

『ギィィン!』


投擲した苦無クナイが、彼の持つ黒一色の剣によって弾かれる。


「あーー、めんどくせえなぁ。おい、イレーヌ。この階層全体に、デバフをかけろ。」


「な、何を言って「いいからかけろ!じゃねえと死ぬぞ。」


死ぬ?あんな技術もへったくれもない、力だけが取り柄の彼に、僕たちが殺される?


が、詠唱が始まった途端、あの魔法は危険だと、今すぐやめさせろと、直感がそう告げた。


僕はその直感に従って、手裏剣やら苦無やらを投げてみたけど、その全てが剣で弾かれる。


もう僕の元には、近接戦闘用の短剣しかなかった。


「【第一制限魔鎖・解錠リミット・ブレイク】」


パキィン!まるで鍵が壊れたような音がして、一気に目の前の男の魔力放出量が上がる。


「はは、は…。こんなの、勝てるわけ……。」


短剣を突き出したにも関わらず、それは皮膚を貫くこともできない。


圧倒的な力の差。アイツを目の前にしても、これほどまでの恐怖を感じることはなかった言うのに。たかが人間に、アイツの駒でしかない人間に、これほどまでの恐怖を抱いた事はない。


「き、君は……一体なんなんだ。」


「あ?あー、不死者アンデッド。この迷宮で死んだ男の成れの果てだ。」


刃先が、一瞬だけ揺らいだ。その時、彼の魔力は一切揺れなかった。









守護弓兵アーチャー・アルカを討伐。討伐報酬を選択してください。』


「弓兵の弓矢

 タブレット(魔力稼働型)

 弓兵の服」


タブレットなるものを入手した。さっきの金属板である。


弓を使わねえでこれか。やっぱり、コイツら人間じゃねえな。人間に形を似せた何かだ。俺はその動きを目で追える自信がないから、制限解除をしてしまったのだ。


『マスター?なにあれ。はやかったぞ。こわかったぞ。』


「ああ。俺にはああやって封印が施されてるんだ。あれと、もう二つだな。どうも、俺が生まれる段階で2つの封印があったらしくてな。それを模倣して、三つ目の封印をしてた訳だ。そうしないと、お前が魔力を吸い上げるからな。」


『三つ目?』


「二つ目と三つ目の封印に関しては、不死者アンデッドになる前からあったんだが、それを知覚できたのはこの姿になってからだ。理由は知らねえが、ヤバい雰囲気は感じたんで、まだノータッチだ。」


どうも、今の魔法ではないようなのだ。理解しようにも、紋は見たことがないし、描くこともできない。魔力操作ウォーロックも反応しなかったから、どのような効果があるのかも分からない。


「制限があってその強さ。君、やっぱり面白いね。」


どこからか現れたアルカ。もう、2人も一瞬で復活したのを見たから、驚かない。


「あれ。もう驚かないかぁ。残念だなぁ。」


「当たり前だ。もう三人目だぞ。それと、コレ、貰ってくぞ。」


「ああうん、負けたらあげるつもりだったし。そろそろ僕たちも自由になれそうだしね。全然構わないよ。あとね。その制限は……うーん、エレットなら知ってるんじゃないかな?」


「エレット?」


「95層、守護騎士ナイトエレット。彼に話を聞いてみるといいよ。情報はイレーヌから聞いてね。じゃ、君たちの幸運を祈るよ。ばいばい。」


俺たちは、そのまま91層に放り出されたのだった。

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