012. ドートルと酒がいました。


第85層。その扉を開けると、槍を持った男がいた。


「あ、頭が……痛い……。」


頭を抱えた状態の男が。


「ドートル!また酒ですか!?」


突然、俺の後ろにいたイレーヌが怒鳴り出した。


「全く、昔から酒ばっかり。昨日も夜遅くまで飲んでたんでしょう?何やってるんですか、もう。」


「うう……。イレーヌの幻影が見える……俺に怒鳴ってる……いつものうるさいイレーヌだぁ……。」


ピキ、と音が聞こえた気がした。否、聞こえた。


途端、物凄い速さで後ろから何かが走っていった。イレーヌだった。


「私は幻影でもなんでもないですよっ!」


イレーヌが蹴り上げた足は、男の股間に直撃。男……多分ドートルだろう。ドートルは自身の股間を押さえて、悶絶した。


「うぐぉ……痛い……。」


やはりそこは、蹴られると痛い。元は人間の男だったから、分かる。あれはかなりキツい。数十分は悶えることになるだろうな。


仁王立ちして腕組みするイレーヌと、股間を押さえ、しゃがんで悶絶する大男。事態は混沌を極めた。ついでに言うと、槍は放り投げられていた。痛みで放り投げたのだろう。なんというか、頑張れと言ってやりたくなった。












「ま……まだ、痛い……。」


「あ、ああ……えと、一応、元男として言う。アレは、イレーヌが悪い。」


腰の後ろの辺りをポンポンと叩いてやりながら、痛みがおさまるのを待つ。


数分間に及ぶ、ドートルを襲う激痛との格闘が終わると、息を整えた彼は俺を見てこう言った。


「あ、ありがとう。お前、優しいな。イレーヌとは大違いだ。」


俺にはにこりと笑いかけたが、イレーヌをキッと睨みつけて、威嚇するドートル。こいつらは、仲が悪いのだろうか?


「五月蝿いですね。あなたが悪いんでしょう。酒なんて飲んで……。昔のことも全く懲りてないんですから……。」


「昔……ったく、そんなの生前だろー?俺たちゃもう死んだんだからよぉ、いいじゃあねえか……。」


「生前だろうがなんだろうが関係ないですし。これだって私たちの体なんですから、酔ったりするんです。前より酒に弱くなったって言ったのはあなたですよ?」


「う……。あ、お前、挑戦者だろ!早いとこ済ませようぜ。うるさい奴は置いといてよぉ。」


「え、あ、ああ。分かった。」


バツが悪いのか、話を切り上げて俺との戦闘にしようとしているドートル。


「よし、イレーヌ合図頼む。」


「置いといて」ない気がする。絶対違う。断言する、これは違う。


「はいはい。」


途端、俺を取り巻く空気が変わった。イレーヌと戦った際以上の、とてつもない威圧感を感じた。


「両者、構え。」


俺はクリュサールの剣先を、彼の喉元に向ける。魔力感知ディテクトで、攻撃開始の瞬間を見極める。


槍の先は俺の心臓……否、霊核と言うらしい(イレーヌ談)に向けられていた。


俺はクリュサールを構え、ドートルの攻撃を待つ。しかし、ドートルはいくら待っても攻撃をしてくる気配がない。槍も構えた状態で維持されており、ピクリとも動かない。


その状態が10秒続いた。そして突然、ドートルの魔力が揺れ、槍が投げつけられた。槍は、俺の右頬をかすめ地面に突き刺さる。


「ほぉん。じゃ、いきますかね。本番だぞぉー。」


どこからか、もう一本の槍が出てきた。先程の槍より少し小さく、動かしやすそうだ。


俺は、魔力操作ウォーロックで、クリュサールの魔力を限界まで自分の流し込む。


そして、俺はクリュサールを構え直し、イレーヌ戦同様に迷宮内の地面を操作して目眩しをしつつ、接近する。


「え」


ドートルがなにか言ったようだが。


剣を横に振る。そこに技術など一切ない。ただただ横にブンっと降っただけだ。俺は、槍で塞がれるものと思っていた為、その後にどう攻撃するか迷っていた訳だが、その剣は、右から左へ流れた。


「あ……えーっとぉ……ペルデレさんの勝ちー……。」


一撃でカタがついたのに驚いたのだろう。言葉は途切れ途切れだった。


守護槍手ランサードートルの討伐確認。討伐報酬を選択してください。』


『守護者の槍

 守護者の酒

 酒

 硬化スクリロウシス


酒が二つ。……意味不明。俺は迷わず能力スキルをとった。


『そう言えば、どうやって復活するのか見たいのぅ。一体どうやって……』


「よぅ。」


真後ろから魔力反応。さっきまで聞いていた声。


「!」


「いやー、やっぱ、強いなお前。」


ケラケラ笑ってはいるが、今さっき死んだのだ。俺は人間として復活できなかったのに、先ほどと変わらぬ姿で居たドートル。なんだか、イラッとした。


「……。」


ムカついたので無視した。


「じゃあ、イレーヌ。行くぞ。」


「また今度どっかでなー。一緒に飲もうぜー。」


「……まあ、どっかでな。」


酒……生きてるうちに飲んでみたかったなぁ……。クリュサールを背中に担ぎながら、俺はそう思ったのだった。






————後書き————

どうもしろいろ。です、ハイ。お酒というものは怖いです。





少々、汚い話になりますが。嫌な方は飛ばしましょう。








僕の父は、外でかなりの量の酒を飲んできたらしくふらふらとおぼつかない足取りで帰宅。その後は自身の部屋の床に寝ていただけではなく、起きたら起きたで自室のすぐそばの玄関で用を足すと言う、醜態を晒しました。僕が母に報告したところ、とんでもなく怒られており、自分で片付けを行いました。靴は、置いてあったもの全て手洗いさせられていました。


まあ、肝心の父は記憶がないそうですが。……その後、それに反省したかに思えば、数ヶ月後にはトイレの便器に顔を突っ込んで吐き、そのまま気を失う……。母がその写真を撮ったようで、見せてもらった僕は吹き出しました。


酒は、やっぱり怖いですねぇ。








とまあ、少々どころかかなり汚らしい話でしたが、以上しろいろ。でした。

……投稿サボってましたね。すみませんでした。

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