011. 情報は多い方がいいです。


「ねえ、ペルデレさん。そう言えば、どうして私の聖魔術を無効化……というか相殺?出来てたんですか?」


『それじゃ!馬鹿みたいに突っ込みおって!死んだかと思ったぞマスター!』


仕方ない。教えてやるとしよう。


「あの魔法、浄化用の術式だろ?」


 俺の体の一部がシューシューと音を立てて火傷みたくなっていたのが、一番の証拠だ。……なんか痛くなかったので、気にしていなかったが、2人の言葉から察するに、かなりヤバかったんだろう。


「そうです。私、ペルデレさんのことを本気で殺しにかかってましたし。不死者アンデッドって浄化魔法なら一発だと思ってたので。」


「なら、簡単だろ。浄化魔法の本来の使用法は、魔法が効く範囲内の状態異常の回復だったはずだ。」


「あー。確かにそうでした。」


「俺は、毒の霧を鎧みたく纏ってたんだ。毒を喰らわねえとは言え、魔力出力を最高レベルで維持しないといけなかったから、だいぶキツかったけどな。」


『やっぱ魔力バカなんじゃなマスターは。』


「多分私より魔力多いですよねぇ……正直、圧倒的でかなり怖いですもん。」


「隠した方がいいのか?もっと抑えるくらいなら出来るんだが。」


偽装ディシートで魔力偽装を強めるか?いやでも別に……。


「抑えるってなんです?」


『どっからあんな魔力が出てくるんだって思っとったんじゃがやっぱか。』


「いやその、な。こいつ、俺の魔力に余裕があれば魔法をボンボン打つから。偽装して魔法を撃つのをやめてもらってたんだ。」


コンコンとクリュサールを叩く。


 魔術に関しては、確かに敵の殲滅には適していたが、九門魔術ノネットなんて大仰すぎる。いつ魔力が枯渇するとも限らない中で、彼女の勝手で魔法を放たれるのが嫌だったのだ。


『だっていくら撃っても魔力の枯渇どころか底すら見えんのじゃもん。十門魔術デクテットを撃つのは流石に怖いし、九門魔術ノネットならもしかするとマスターの魔力量を測れるかも、と思っとったんじゃがな……。』


怖くなかったら十門魔術デクテットをぶっ放していたらしい。俺は怖いったらありゃしない。記憶が正しければ、国ひとつが吹っ飛ぶ魔術だってあるらしいのに。


「これで抑えてる?マジですか?剣も、速さだけならエレットに届いてますし、魔力は言うまでもない……。これはもしかして此処の攻略も……。」


ブツブツと何かを呟くイレーヌ。聞き取ろうと思えば聞き取れるが、面倒なのでスルーだスルー。


「おーい帰ってこーい?おーい?」


「はっ!?ああえと、その……そろそろドートルのお話をしておきましょうか……。」


「もしかして名前も知らない誰かの話が始まるのか?」


「ち、違!守護槍手ランサーの名前ですよ!」


『普通に考えてそいつの話じゃろマスターよ。』


「ああ、まあそうだろうな。」


「なんなんですかそのテキトーな返事。別に分かってましたけどみたいな。」


『イレーヌとかいう奴よ。マスター、わかっててわざと言ってるみたいじゃぞ?』


「まあ、反応が面白いからな。」


「ひ、ひどいですぅ……。」


「……そうか、すまんな。」


「あ!頭撫でないでください!嬉しいですけど、悲しくもなります!」


「ああ、背のことか?ちっこくて可愛いよな。」


『なんかその言葉超ムカつくので、【霊体顕現クリュサール・アーティガル】』


そう言えば、クリュサールの霊体もかなり小さな少女だ。


「おう、オメーも小せえよな。」


クリュサールは小さな少女のような風貌だ。金色の髪に、白い肌。服は白い布でぐるぐる巻きにした感じだ。


「ちょ、乱暴に撫でるでない!優しく撫でるのじゃ!」


「分かったから。クリュサール、一旦黙れ。」


「むぅ……。」


本来は「ドートル」の話をしているのだから。


「じゃあ、話を戻しますね。ドートルは守護槍手ランサーですから、槍が主な武器です。」


「まあ、名前からしてそうだろ。そんな奴が剣振り回してたら嗤ってやるわ。」


高笑い……出来るか分からんけど。


「そ、そうでしょうね。槍一辺倒であそこまでいったんですし。」


「? まあいいや。続けてくれ。」


「はい。槍は魔銀ミスリル製で、まず折れることはあり得ません。加えて彼の体術は、近接戦闘も苦にしません。ですが高速での移動は苦手としています。」


折れることはあり得ない、というのはどの程度の力までか分からないが、多分折れないだろう。槍をへし折って戦意喪失……は無理そうだ。徹底的に潰す方向で確定だな。


「で?他には?魔法とか能力スキルとかは?」


多分、それを補って余りあるほどの能力スキル所有者なのだろう。


「【硬化スクリロウシス】です。体の硬さが変わります。」


「へえ。体術があって、槍の扱いは天下一品で、いざ攻撃すれば攻撃は効かない。負けしか見えねえな。」


「ただ。」


なんだろう、能力スキルの発動条件か?


「ただ、【硬化スクロウシス】は反動があります。ほんの一瞬だけですが、解除後には硬直状態が発生します。そこをつけばいいでしょう。」


「なるほどな。で、それはいつの話だ。」


「2000年ほど前です。」


なんの意味もねえ情報じゃねえか。


「今の情報が分からねえなら、その情報って無意味な気がするんだが?」


「いえ。大抵の能力スキルには反動がありますが、そんなものはたった2000年の修行で変わりはしません。私のだって、死角があるんですし。」


「待て。この能力スキル、死角なんてあるのか?」


「はい。自分の真後ろだけは鮮明に見ることができないんです。」


そんなのは知らない。俺は360度全部を見渡せるし、全て映像は鮮明だ。


「俺のは死角なんかないぞ。360度鮮明に映る。」


「……?個人個人の能力スキルが、本当に同じもののはずがないでしょう。ペルデレさんのそれが、私から奪ったものであるならば別ですけど。」


「そのまさかだ。俺のは、お前から奪ったものだ。それなのに俺の方が優れているから、なぜと聞いているんだ。」


「さ、さあ。あなたの能力スキルが、私から奪ったのを変化させたんではないですか?それが一番現実的だと思います。ただ、それでは【エラー】になるかもしれませんけど。」


「【エラー】?なんだ、それ。」


「いいえ、なんでもありません。知る必要もありませんし、すぐ忘れてください。ね?」

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