010. 同行者を得ました。










 魔法で焼き殺したはず(未確認)の彼がいきなり始めた反撃。突如として地面が動き出した。変形して突き出た岩は、私の服をいとも簡単に引き裂いた。


地面で貫こうとしているという予想は大体できる。だからそんなのは私に効かない。ジャンプして躱せば良いだけだ。思いっきりジャンプして、ギリギリの状態で回避する。その時、


「もらった———」


彼の声が、私の頭上から聞こえた気がした。


咄嗟のことで驚いてしまい、目の前に見えたその塊を魔力壁で包み込み聖魔術を延々と叩き込む。


だけど。今の今まで何もなかった自分の真後ろに、何か違和感を感じた。


その瞬間、私は後ろを振り向いた。そこには、隻眼のあの男がいた。私を射抜かんとするように鋭く、左目で私を捉えて、剣は振り抜かれた。


鈍い痛みと共に、数千年前のあの日と同じく意識が遠のいていくのが分かった。









首を失った体は、ズシャ、と音を立てて崩れる。彼女は魔物……ではなさそうなので、死体は残るのかもしれない。まあどうでもいいか。


『マスターってかなり辛辣なんじゃの。』


「うるせえ。久々に全力で武器を振れたから興奮してるだけだ。」


『興奮してるような口調じゃないわ、このボケマスター。』


無視だ無視無視。


【守護魔術師イレーヌの討伐を確認。討伐報酬を選択してください。】


さて、いざ能力確認。どんな能力を持っているのか、少し楽しみである。


魔力感知ディテクト

 白いローブ

 魔術師の杖』


ん?杖?あいつ、杖なんて持ってたっけ。まあいいや。俺は杖をそのままに、彼女の能力を入手した。


「あのぅ……。」


ん?さっきまで聞いていた声だ。まさか……。


「あー、えっと。ゴホン、おめでとうございます。80層突破です。」


「なんで生きてやがる。首を落としたはずだぞ。」


すぐさま臨戦態勢に移行。先程は確かに殺したはず。しかし今は、彼女からしっかりと魔力反応がある。つまりまだ続くということかもしれない。


「あ……え、えっと……もう戦いは終わりです。それとですね、私たち守護者は、ここのフロアボスと同じように復活できます。何の容赦もなく首チョンパはびっくりですが、まああのまま行けばあなたは浄化されていたので、殺すのが正解だったと思いますよ。」


「マジかよ。お前復活出来んの?」


「マジです。私はここでなら幾らでも復活できます。」


マジです、なんて真面目な顔で言われたものだから、言葉に詰まる。


「でも、痛いものは痛いんです。首チョンパはひどいです。」


「知らん。」


聖魔術で俺のこと殺しに来てたんだからそれぐらい覚悟しておけよ。


「し、知らん!?ひ、酷いですよぉ!」


というか、コイツちょっと前まですげー堅苦しい奴だと思ってたけど。


「お前、どっちが素なんだ?」


「え?あ、もちろんこっちですよ。あんなキャラ、疲れるに決まってるじゃないですか。いやでしょう?あんな堅苦しい奴なんて見てるだけで肩が凝ります。」


……あれ?先程の対話の時より、俺の視線が下へ向いている気がする。


「背ぇ、縮んだか?」


「身長に関してはノーコメントで……。」


「身長は?」


知るか。


「……。私がさっき履いてたあれ、実はシークレットブーツと言いまして。背丈があるように見える優れ物なんです!」


「次。で、なんで今更出てくるんだ。」


「あ、そでした。も、もし宜しければご一緒に……。」


『妾こいつやだ』


魔力波を振動させ声に近い物を出すクリュサール。……本当に、器用だな。


俺としてはどちらでも構わないのでクリュサールの決定でいいだろう。


「だとよ。じゃあな。」


「うぇ……そんなぁ……。私どこに行けばいいんですかぁ……?」


「意味分からん。ここで生きてりゃいいだろ。」


『そうだそうだ一人寂しくここで消えろー。』


「余裕ぶって後のこと考えずにボンボン大魔法打って挙げ句の果てに魔力切れで首チョンパされた魔術師なんて必要ないって、マスターに言われたんですよぅ。ここに誰かが来たのだって数千年ぶりだし……。行く宛も金もないんですよぅ。」


Oh……。ボロカスに言われてるじゃん。


何?同情したからって別に助ける訳じゃないけど。


「お願いしますぅ、みんなの弱点とか教えますから〜〜!」


「よし乗った。」


こんな奴と同格……いや言葉から察するにもっと強者だろう。そんな者を後四人相手するのに、前情報なしに突っ込んだら死ぬに決まってる。俺は即座にOKを出した。


「わーいありがとーございますー!」


女性らしい彼女の体が俺の体へ密着しても、特に何も思わない。強いて言うなら熱苦しい。邪魔。ウザい。あーあ、……いつか人間に戻れねえかなぁ。


『マスター……あ、こら貴様!妾のマスターじゃ、触るでないぞ!』


もはや俺がイレーヌに抱いた感情は、出会った当初に感じた恐怖ではなく、呆れにも近いものであった。いやきっと呆れそのものだったのだろう。









「そう言えば、どうして右目がないのですか?」


『妾が貫いた。らしい。』


「おう。こいつが吹っ飛んできて俺の右目を貫いてな。問いただしても『知らん』の一点張り、もう大丈夫だから気にしてないけどな。」


イレーヌの持っていた魔力感知ディテクトで解決したが。


『妾だって知らんもんは知らんの!』


「まあ、もういいって言ったろ、今。気にするな。見えても見えなくても変わらねえし。」


「あともう一つ。お名前を聞いたことがないんですが、教えてもらっても?」


「元々はあったんだろうが、今はない。名無しだ。」


「へ、へえ。」


名前がないとやりづらいのだろうか?……たしかに、彼女が俺を『マスター』と

呼ぶのは違う気もするか。


「名前がねえ今は、【名無しペルデレ】でいいんじゃねえか?」


「ぺるでれ、ですか?」


そのまんまだが分かりやすいだろう。実を言うと、人間の頃の記憶が少しずつ薄れてきている。名前から始まって、今となっては父と母がいなかったことくらいしか覚えていない。まあ俺はもう人間でないのだから、別に忘れてもいいのかもしれない。


「名前じゃなく、あだ名。俺の名前は別にあるからな、多分。」


「はい。あー、えと、ペルデレさん。」


『わ、妾はマスターって呼ぶぞ!』


「勝手にしろ。」






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