009.守護魔術師とかいう奴がきました。



「ようこそ、第80層を訪れた、勇敢な戦士たち。私はこの80層迷宮の主の守護魔術師メイジ、イレーヌです。」


目の前には、白いローブの女がいた。


「あら……?貴方は……不死者アンデッド?それに……後ろの子は精霊?どういう組み合わせなんでしょう。……これならば確かに、が気にかけるのも納得ですね。」


彼女はさらに続けて、こう言った。


「どうして貴方は、人間のように活動できるのですか?」


「知るか。ここの魔物に殺された後、何故か目覚めたんだ。それよりも、さっさとここを通してくれねえか。早く外に出てぇんだ。」


「申し訳ないのですが、それは了承しかねます。」


「なんでだ?」


「その前に、ここから先のお話をさせてくださいませ。」


静かに此方へ寄ってくる白ローブ。俺は後ろで、びっくりして固まっているクリュサールを庇うように立ち、いつでも殴りかかれる準備をした。


「いえ、手出しはしません。ですので、ご安心を。単にお話をするだけですので。」


「話?」


信用したわけではないが、彼女に対する警戒レベルを一段階下げた。


「ありがとうございます。はい、お話というのは、ここから先のこの迷宮は、これ以前とは違うという警告、そしてここから先の階層の説明を。」


「早く、説明してくれ。」


「はい。ではまず、先程私が名乗った、守護魔術師メイジですが。この迷宮にはマスターがいます。マスターを守る四人の守護者、守護槍手ランサー守護弓兵アーチャー守護騎士ナイト、そしてメイジ。これからは5層ごとに私達と戦っていただきます。」


「……。」


俺が無言で話を聞いていると。


『のうマスター、こいつやばい。こいつつよい。』


空気を読まないうるさい念話が頭に響き、ついクリュサールを睨み付けてしまう。


「どうかしましたでしょうか?」


「なんでもない。続けてくれ。」


「続けて、と言われましても。もう特にお話しすることはございませんが。」


「なら、質問いいか。」


「ええ、私に分かる事でしたら、いくらでもお答えいたします。」


「100層攻略したら、帰れるんだよな。地上に。」


「……多分。」


多分てなんだ多分て。


「いやその、貴方は不死者アンデッドなわけですよね。日光はダメだと思うのですが……?」


「ああ、俺に日光は効かんらしい。ステータスからも日光の文字が消えていた。」


この姿へ変わった時のステータス画面。俺の特性、「不死者」には聖属性魔法以外の無効化とあった。日光という文字は見られず、最初の懸念であった「外に出て活動できるか」という問題は解決済みなのだ。もちろんどうしようか悩んでいた訳じゃないよ?チガウヨ?


「そうですか。……ですが、私はこの迷宮の攻略者を知りません。有力候補だった大昔の勇者は、守護騎士ナイトに倒されてしまったようで。」


倒されていた?そんなに強いのか、守護騎士ナイトという奴は。


「質問は以上でしょうか?そろそろ戦闘開始してもよろしいでしょうか?」


俺がそう考えていると、イレーヌはそう言う。


「うむ。」


言うが早いか、剣の姿へ戻るクリュサール。


「おや?あなたは精霊だと思っていましたが、魔剣の類でしたか。」


じっとクリュサールを見つめるイレーヌ。その視線を感じたのか、クリュサールは魔力波を使って声のような物を出す。念話じゃないのか?


『マスターとしか念話などしたくないのじゃ。イレーヌ、じゃったかの。なんじゃ、文句でもあるのか?妾をじっと見て。』


「いえ、どこかで見たことのある剣だな、と思いまして。まあきっと私の気のせいでしょう。さて、不死者アンデッドの貴方は、準備の方はよろしいのですか?」


俺はクリュサールを手に取り、答える。


「勿論だ。来い。守護魔術師。」


「それでは参ります。」


途端、俺へ向けて、ざっと100門ほどの魔法陣が展開された。


「『……。』」


それは魔力を槍の形にしただけの簡素な魔術だったが、びっくりして言葉が出ない。それはクリュサールも同じのようだ。


「さあ。勇者よ。余興にはなりました。それでは、さようなら。」


天に掲げた右手が振り下ろされ、それを合図に100の魔法が全て発動する。狙いは俺の心臓部。魔物が有する心臓を破壊するつもりなのだろう。


『まっままままま、マスター!?これは無理じゃ!逃げろ!!』


「大丈夫だ。俺は死なねえ。なんたって俺は、不死者アンデッドなんだからな。」


そう、この魔法は俺に効くことはない。聖属性魔法以外を無効化する特性を利用して、ただただ突っ込むのみ。


そして、ただただ早く。彼女の首を取る。一撃で全て終わらせる。


「防御もしない。そうですか。これは。」


良く見ていなかった。俺はそのまま、魔法に焼かれ————。













———なかった。……うん。なんで?


俺が混乱していると、クリュサールが叫ぶ。俺の脳内はガンガンと彼女の声が響く。


『このボケ!不死者アンデッドを殺す方法なんて聖魔術以外ないんじゃ!六属性魔法なんて使う意味もないんじゃぞ!?妾が無理って言った時点で逃げるのが普通のはずじゃ!?』


確かにそうだが、もし今、クリュサールが結界を構築していなくとも、俺は焼かれていない筈だ。


『ちがわい!六門魔術セクステットを起動できておらんかったら、今頃灰も残さず消滅してたはずじゃ。イレーヌとかいう女、彼奴はマスターを殺しに来ておる!決して楽に勝てる相手ではないのじゃぞ!?』


「ふむ、移動もせず受け切るとは。やはりやり手のようですね。では、これはどうですか?【聖王結界アブソリュート・バリア】」


聖魔術。これに属する魔法は主に、人に害を及ぼす魔物の浄化を目的とする、いや、ただそれだけのために作られた魔術である。【聖王結界アブソリュート・バリア】、これは魔物の動きを制限することができる魔術であり、簡単に消滅する。


「ああ、この魔法で死なない、そして自由に動き回るでもない。ランクを高く見積もって、あなたは中位不死者ジェネラル・アンデッドと言ったところでしょうね。」


『やばいぞマスター。あれは本当にまずい。中位の魔物なんて消し炭じゃ!早く物陰に……。』


「動く必要はない。今度のは受け切れる。」


『な、何を言っておるマスター!無理じゃ!妾の結界も持たぬ!』


「今度こそ。【星下結界エストレリャ】」


この魔術は、ただただ不死者アンデッドの浄化の為に彼女が作った魔術だろう。いくらクリュサールの記憶を辿ってもこんな魔術は存在しない。俺を殺すというよりは、浄化しようとしているのだろう。本来なら死んだ命をここで断つ、そのような意味が込められている。


俺の周りは光で満たされる。予想以上の出力に、俺の体の一部が焼ける。少しずつ、俺という存在が消えていくのが分かった。


『ま、マスター……。』


「なんで悲しそうな声をしやがる。大丈夫だ、今は俺は死なねえ。いや、ここを出るまでは、絶対死なねえ。お前と一緒に、太陽を拝んでやるんだ。」


俺は集中して、クリュサールを構える。その間にも、俺の体は少しずつ崩れてゆく。痛みがないといば嘘になる。だが膝はつけない。それは敗北を意味するからだ。大丈夫、あと少し。あと少し耐えるだけだ。


星下結界エストレリャ】の出力が少しずつ弱まる。守護者として、とんでもない魔力を有しているとは言えども、魔法陣を用いた九門魔術ノネットは少々無理があったようだ。当初の数分の1まで威力が落ちる。


 ここが反撃開始の合図。俺はここで、毒霧ポイズン出力過多オーバーフローさせた。自身の周りに纏わせ、この間見せてもらった炎の鎧のように身に纏う。


そのまま剣を握って、結界外へ脱出。【魔力操作ウォーロック】によって土を動かし、彼女から俺が視認できないように地面の形を変える。


「ズドォォォ!』


目の前に尖った岩を露出させ、串刺しにできることもちらつかせることで下に警戒させ、俺は魔力の塊を【魔力操作ウォーロック】で彼女の目の前へ。下に気を取られた彼女は、突然現れた大きな魔力に慌てて魔法を放つ。


「!?【聖炎フィアマ】!」


魔法を打つ際の強大な魔力に紛れ近づき、首を狙って剣を横一閃に振り切る。


「あ————」

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