006.剣が出て来ました。









 迷宮第75層。時計が飛んでる階層からは抜け出したのだが。


正直、今はもっと酷い。


……剣が飛んでるから。滅茶苦茶な速度で。ブンブン音立ててこっち狙って何本も来る。痛みはないんだけど怖い。


「……いや、怖。」


棍棒は振っただけで砕け散るし。魔法使えよ、とは言ってもこの現状を打破できる魔法のイメージが湧かないし。


でも、進まなきゃ帰れないし。それに防御ないし。剣で貫かれる程度どうってことないだろうと、ノープランでぶらりと出てみると。


突然右目が見えなくなった。なぜか分からなくて、魔眼を凝らして周りを見渡すと。後頭部に、とんでもない出力の魔力を誇る剣があったんだ。


自分に刺さった訳だから、抜くだろ。抜いてその剣見たらだぞ?


魔剣だったという訳だ。我が身に起こった出来事とは言え、意味分かんねえ。いやマジで。


普通の剣……というか武器全般だが。それらは、振ったら間違いなく役立たずのゴミの塊になるから、魔剣のように魔力を吸い続けてどんどん強力になるような武器はありがたい。魔剣などの強力な武器は現代に作成が可能な人がいないため、専用の魔法陣を使って召喚するしかないから、面倒だったのだ。


しかし、意識を持つとか持たねえとかどこかの誰かが言ってたような気がするが、嘘だったのか?


『のう?マスター?』


「ん?なんか誰かいるのか?どっから話してんだ?マスターって誰だ。」


『ここじゃここ。』


「何処だよ。」


『今しっかり握ってる剣じゃよぅ。』


「あ。魔剣お前か。」


『妾に向かってお前なんていうやつ初めて見たわこのボケマスター。』


「お前、目ねえじゃん。あとなんだよ、ボケマスターって。」


『ボケマスターはボケマスターじゃよ。目がない、じゃと。……た、確かに。いやでも、魔力飛ばしてればで周りぐらい見えるし!』


魔剣は随分お喋りなようだ。


『そんなのはどうでもいいのじゃが。それよりも、妾どうしてこんな場所で召喚されたの?見たところ私を召喚できるほど魔力は大きくないと思うのじゃが。』


「うるせえ。魔剣と人を比べんな。それに俺の右目を返せこのクソ魔剣。」


『む。召喚してないのかの?じゃあなんで妾ここにおるの?』


「知らんわダメ魔剣め。だからさっさと目ェ返せ。」


『いや妾返すものなんてないぞ。』


「は?さっき飛んできたのお前だぞ。」


『む。妾としての意識は、マスターが手に取ったあたりからしかないぞ。マスターを貫く不忠者じゃないんじゃよ、妾。』


意味が分からない。じゃあ誰が俺の右目を奪った?


『のう、それほんとに妾がつけた傷なのかの?』


「つけられたやつに言ってんだろダメ魔剣が。それじゃなきゃ俺が八つ当たり野郎じゃねえか。」


『のう、罵倒されて悪くないと思っとる妾、やばい?』


「おう、へし折ってやりたくなるレベルで気持ち悪い。」


一度へし折るフリでもしてみようか?俺は剣を両手で持ち、全力をこめてみた。


〈メキ〉


なんかヤバそうな音がした。


『へし折るのはらめえええええええ!!え、まってちょちょっちょ今メキッて言ったよ!?魔剣メキメキ言ってる!?え待ってなんで!?折れるなんて聞いてないやめろやめろやめてくださいマスター様ー!?』


よく考えたら魔剣の魔力に気がつかないなんてありえないだろ。こんな莫大な魔力なのに。そこまで気を抜いていた訳じゃないんだが。ノープランだったけど。


「ギャーギャー騒ぐな。マジで折るぞ?」


『脅しで言ってる訳じゃないのがね、そこがね、さらに怖いんじゃよ、マスター様よ。』


「まあ、目が見えねえからって困ってる訳じゃねえが……。戻せねえって、どういうことだ?」


『妾は、滅ぼすだけが芸の一発屋じゃ。妾の意識があろうとなかろうと、傷をつけられてたが最後、その傷は治ることないのじゃ。もう目は機能せんじゃろ。」


多分俺に向けて投げたんだろう。誰かが。そしたら頭全体が機能していないという方が頷けるが、俺の目以外は正常に治った。


「なあ、もし、誰かがある箇所だけを無くしたいと思って突き刺したら、その能力はそこだけに働くのか?」


『うむぅ、それは分からん。なんせマスターの言ってることがあった時、妾の意識ないし。そういう使い方されたことないしのう。』


「無能剣ワラワって名前つけていいか?」


『妾の事全否定!?いやそれはふざけておるな、表情筋死滅済みマスターよ。』


「うるせえ一度死んでるんだから死滅してて当たり前だろうが。」


『え?』


「ん?」


もしかして人間だと思っていらっしゃるか?この無能剣は。


『そういえば後頭部刺さってて生きてるなんておかしいじゃないかマスター!』


「なんで今更気がつくんだよ、マジで【無能剣ワラワ】かよ。もしかしてそうやって呼ばれるのが悦びとか言うなよ!さっきのは冗談だがマジで折るぞ?」


『え、その呼び方は流石の妾も嫌じゃよ。お願いだから普通に呼べください。』


「……お前の本名さえまだ知らんのだが、まあ考えておいてやる。もちろん、【無能剣ワラワ】の呼び方の方向でな。んで、俺だが。俺は一度死んで、なんでか復活した不死者アンデッドだ。名前はねえ。っつうか思い出せねえ。」


『ふむ、マスターと呼ぶことにしようかの。妾は魔剣クリュサールじゃ。まあ、クリュサールと呼んでくれればいいのかのぅ。お願いだから、無能剣ワラワだけはやめろください。』


姿もないし剣のまま話しかけてきてるんだが、この声のせいか女が土下座してる格好が思い浮かんだ。


「出自は。お前はどうやって生まれた。」


『妾か?多分神造兵器じゃろ。神によって生み出されたんじゃろーな。人が作ったんじゃないと思うとる。』


「聖剣魔剣は神の創造物、だったっけか。」


『うむ。ああでもな、人間の創造物の中にも特別強力なのはあったらしいのぅ。その例に、どっかの星、チキュウには妖刀っちゅうモンがあるらしいんじゃがの。まさに別格、魔剣と聖剣妾たちに匹敵しうるとかじゃて妾の友人が。人の怨念全部背負ってるとか聞いてドン引きしてしまったわ、妾でもな。』


「それはいいとしてな。お前、無能剣ワラワじゃねえのか。」


『いつまで引っ張るんじゃその適当なダッサい名前!』












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