第49話フレイその2

凍てついた森の中の拠点を、不意に沈黙が支配した。

フレイ様

へリングです。

時間通りかしら?

はい、定刻きっかりです。

[各指令官に連絡よ。命令ありしだい進撃よ、と]

はい、閣下]


[しばらくして]

全員に伝わりました。いつでも行動に移れます、閣下]

[万事予定どおりかしら?]

[はい]

よし。それでは、このまま作戦を続行よ。各自、与えられた任務を果しなさい。各司令部からの報告がありしだい知らせるように。


シェーナー大佐、あなたが指揮をとりなさい。

われわれに全員に、神の加護がありますように。

それから諸君、ティオスの未来はわれらの手中にあることを忘れないでね。

フレイ率いる部隊は、察知されることもなく、フォン中将の部隊を攻撃。


その頃、フォン中将の部隊は、この遠征で、疲労と寒さで憔悴していた兵士たちは、やっと温かい食事にありついて満腹していた。

歩哨たちも、バテている点では非番の兵士たちと変らなかった。


たとえ、あらかじめ敵を警戒するように言われていたとしても、彼らの反応は鈍かっただろう。

30分もたたない内にフォンの部隊はほとんど無抵抗のうちに降伏、フレイは、敵の拠点を占領したのだ。


[へリング]

[はい、閣下]

第二小隊に知らせなさい]

[はい]

もしフレイが全権を与えられていたなら、攻撃には早暁を選んでいただろう。したがって、唯一の望みは奇襲が効を奏すことにある。

この種の奇襲攻撃では、短時間で標的を確保しない

かぎり成功を望まないことは自明の理と言えるわ。

とりわけ、敵の兵力のほうが優勢な場合にはそれが言える。

このフォンの部隊は、まさしくフレイ率いる部隊より優勢なのである。

が、いままでのところ、すべては順調だった。

フレイはトウヒの枝の下にうずくまって、奇襲部隊の報告に耳を傾けた。敵の部隊は、苦もなく沈黙させることができたという。

新たな報告がもたらされた。それこそは、いちばん肝心な報告だった。敵の野営地にむかった一隊は指揮官以下の兵員を音もたてず始末したという。


その隊を率いているのは、ティオスの暗殺部隊

士元中将であった。

いまや暗殺部隊は野営テントの並ぶ地区と、防御ゾーンにまで侵入したらしい。

フレイは通信兵とへリングに手をふって、自分と一緒に前進するように合図した。

突然、左方のどこかで、魔法攻撃の爆発音が響きわたった。

それは、魔力切になるまで射ち尽すまでつづいた。

それに呼応して、別の魔法の音が二、三ヵ所で響きわたる。

フレイはひそかに悪態をついた。が、もちろん、いままでが順調すぎたのだ。

いずれだれかがヘマをやらかすことはわかっていた。

[通信兵!]

通信用の魔道具が目の前に突きだされた。

[シゲン!そちらの状況はどう?]

[はい、ほぼ制圧しました。あとは、北端に陣どった一隊が抵抗をつづけているだけです。この一隊のてはかなり頑強です]

[急いで、早く占領しないと苦しくなるわ]

[わかりました、閣下!]

士元の声が消えた。

フレイは踵を返して、敵の防御柵ごしに周囲を見わたした。

夜空をとび交う光弾は、ほとんどが赤色に変っている。

通信兵とへリングについてくるよう合図すると、フレイは敵正面を迂回して、敵の指揮所のほうに突進した。

破壊を免かれたいくつかの野営ランプの明かりで、

目につく死体の数がふえてきた。が、部下の姿はどこにもない。

木立ちの陰にまわりこむと、大きなテントが見えた。

内部は明るく照らされており、兵士たちがせわしげに出入して、死体を運びだしている。

[状況を報告しなさい!]

息を荒らげながら、彼女は言った。

[はい大将殿]

中将は北東の敵を処置すべく駆けつけました。

この指揮所にコズマン中尉がおられます]

[よし、ここにいなさい。へリング、あなたは少将の加勢にいきなさい。

通信兵は、わたしのそばを離れないで]

急いで階段を駆けのぼりながら魔法攻撃の音がかなり下火になりつつあることに、フレイは気づいていた。

わずか数分前に、この指揮所内で5人指揮官が殺されたことを考えれば、内部は秩序を保っているほうだった。

そこかしこに血がとびはねてはいるが、それは最初から予測されたことである。

コマンズは、内部の整頓にあたっている兵士たちを、きびきびと手ぎわよく指揮していた。

こちらに気づくと、彼は敬礼して無表情に言った

[すべて順調です大将]




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