第46話「フレイ大将との会合」

込みあったテーブルの間を縫いながら、士元はにやっと笑った。

その隅のほうに、薄いレースのカーテンで仕切られた一画があって、テーブルと背もたれの高い椅子が配されていた。

フレイは、一人そこに座っていた。

ロウソクの光のもとで、陸軍大将の黒い制服の狐の袖章が鈍く輝き、胸の七列のリボンの上にほかげがゆらめいてる。

アイクと士元がちかずいていくと、フレイは立ち上がった。


「士元」しばらくだったわね。

「よく来てくれたわ。さあ、すわって」

アイクに対してもうなずいて、もうーつの椅子にすわるように促す。

「あなたもほっとしたでしょう、元相棒が戻ってきて」


「そういうところです、フレイ様」

アイクは言って、黒い制服のいちばん下のボタンを外し、椅子に座り込んだ。

すると、どこからともなく給仕が現れて、フレイの隣り立った。

「ご注文は、お客様?」ターバンと腰帯の給仕が訪ねた。

「フレイが一通り注文し」

給仕は一礼して足早に遠ざかった。

「で、どうかしら?」フレイが訊いた。

「と、言いますと?」

「感想はどう」


「もどってきての感想ですか?」

「それもあるけど」

「新任の中将になった気分よ」


フレイがニコッと笑って、士元はナプキンに目を落とす。

「そうですね、なんとも言えません。どちらにしても、まだほとんど時間がたっていないので」


フレイはふふっと笑って、「変わらないわね、ちっとも」

それから、急に表情を引きしめて、「アナタの存在がいま貴重なときはないわ、士元

「本当ですか?」

給仕がやってきた。士元とアイクの前にハープグラスを置き、」黒い泡がグラスのふちからあふれそうになるまでなみなみとコール酒をつぐ。

じっとグラスを見つめていたアイクは、給仕が去るのを待ってコール酒をつぎたす。

士元もつい笑みを誘われた。

「変わらないわね、アイクも。彼はすべて、自己流でやらなければ気が済まない性分なのだ。


「そう、フレイ様の言うとおりなんだ士元・・・」

ところで話は変わりますが

「このところ、魔軍の奴ら各地での戦闘を強めています。」

今回はアトラの中央平原の近くの森に出没している。

「なるほど。となると、自分の任務はどういうことになるんですかね」


正式な命令は諜報任務となっているわ。けど、それは本当の任務を隠すためのお題にすぎないわ。


本当の任務はこうよ

わたしは、あなたに暗殺の指揮をとってもらいたいの。

眼下本部にはあなたを入れて、将校10しかいないわ。

だから全員に、二人分の仕事をしてもらうわ。

アナタには暗殺と諜報の役と同時に、毎回一度ティオスの司令部に私と一緒に出頭して状況説明をする補佐役も兼ねてもらうことになるわ。


「どう、異存はないかしら?」

士元はコール酒を喉に流しこんで、言った「えぇ、ありません」

他に言いようがないではないかと、心の中で言った。

ぼんやりと、店内を見まわしながら、士元は改めて思った。

フレイ様が、この店を安全と判断したのも無理はない。

この喧騒を通して我々の会話を聴取できるほど、優秀な者など、誰もいまい。

スパイでも捜しているのか?

「士元は顔を赤らめた・・いや~」


「やっぱり、違うかしら士元⁉」

「と、言いますと⁉」

「前線での戦闘とね。前線ではただ勇気をふるい起こし、アドレナリンがあふれ出るに任せればいいわ。そうすれば、どんな事でもしてのけられる。が、この暗殺と諜報戦というものは、もっと厄介なの。

早い話が四六時中、周囲に気を配ってないといけないわ。


フレイは目を鋭く光らせて、本国で受けた訓練はどうだったのかしら?

「それが、自分では何とも言えないんです、大将、率直に言うと、すべてが性急に運ばれたという感じで。期間も短すぎました。


「それにしてもー」士元は言った。なぜいま、この時期に私は呼ばれたんですフレイ様⁉

私はアナタの訓練教官と話してみたの。各種のハンデを考えれば、貴方は優秀な成績をあげたと言っていたわ。

「士元は驚いて、コールをつぎかけていた手を止めた。


「ほんとうですか?自分は、連中が、自分の扱いに困って、ここに送り込んだのだと思ってましたが」

フレイはニッコリ笑った。あなたのように腕の立つ人の処遇なら、軍はいつでも心得てるわ。


あなたがここにいるのは、私が願ったからよ。

「ま、険呑な話しはここまでにしましょう。そもそもの目的は、あなたが明日からの勤務につく前に、ざっと状況説明しておくことにあったからよ。

「士元」私は明後日まで、ティオスには戻れないわ。

で、簡単ながら、あなたの歓迎の宴を張りたかったの。

「あなた達」さ、今度は歓迎の部に移りましょう。

フレイが、ほとんど空になりかけたコール酒のグラスをかかげる。

士元とアイクもそれにならった。

「我が祖国に勝利を」と、フレイが言った。

士元はくっくっと笑って、グラスをカチンと合わせた」















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