第2話

彼女の背を見送ると愛梨は再びガッツポーズをした。


話せた!


愛梨は念願の夢が叶って空も飛べそうな気持ちだ。

とはいえ、話せただけで、なぜ?ということは何一つ回答を得ていない。

しかし、きっかけはできたのだ。


そう、きっかけはできた。それならばその後は早いものだ。

毎週、愛梨は少しづつ、アップルパイの彼女に話しかけた。

ありがたいことに彼女は実に上品な物腰で嫌がることなく愛梨の話にのってくれた。


その結果わかったことがこれだ。

彼女の名前は、八尾マリ。フランス人とのクオーター。齢は34歳。仕事は都内の某有名企業で経理をしている。この近くのタワーマンションに、半年前引っ越してきたらしい。そして、独身。


絵に描いたような女性である。


男性が思う理想の女性とは彼女のことを言うのではないだろうか。

愛梨は彼女の話を聞くたび羨ましく思い、また、そんな彼女と知り合いになれた自分が嬉しく思っていた。


とはいえ、彼女、マリのことは少しづつ知れたが、実はまだ一つ聞けていないことがあった。

それは、どうしてアップルパイを買うのか…ということ。


好きだから。

美味しいから。

それで買う。


それはそうなのだけど、聞きたいことはそうではない。

彼女が毎週決まってアップルパイを買うにはもっと何か理由がある気がする。

ただ、これはあまりにもプライベートなことすぎてなかなか聞くに聞けない。

そんな日々が続いた頃。

マリが急に愛梨を食事に誘ってきた。


「いつものお礼です。本当はもっと早く誘うべきでしたが、行き過ぎたことかもしれないと思って遠慮していたのです。でも、逆にここまでくると何もしないのも失礼。そう思いまして。いえ、嫌ならいいです。」

「そんな!嫌だなんて!!でもいいんですか?私は特に何もしていないのに。奢りなんて。」

「いいのです。その代わり大したところではないのですけどね。知り合いがやっているバーなのですが。ちょっとした料理も提供してくれていて。」

そう言うとマリは実に爽やかに微笑んだ。

その笑顔ときたら自分が男性なら倒れてしまいそうな代物だ。

いや、女性であっても倒れそうだ。


こんな人とよく自分は知り合いになれたものだ。毎度ながらそう思う。逆立ちしたって何度生まれ変わっても彼女のようにはなれないだろう。

彼女はきっと神様か何かに選ばれた特別な人なのだ。

愛梨の中でいつしかマリは憧れの存在となっていた。

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