第20話 犯人は誰だ!
誘拐事件が発生し、直ちに捜査本部が設置されることになった。
複数の刑事が新たに望月家に出動しようと、電話の逆探知機等の機材と共に準備を進めていたのだが、望月氏から自宅に見知らぬ刑事が追加で来ることを拒まれた。
そのため、青野と姫子だけが望月家で待機する中、結局機材だけが運び込まれる事になった。そして黒川を含めた他の刑事は、警視庁を拠点として事件の捜査を開始していた。
まず、誘拐現場や自宅周辺が入念に調べられ、付近の防犯カメラの映像が次々と確認されていった。
現場にいた青野や犬飼の話、そしてカメラの映像、そこから解明されてきた犯人像は、
服装:黒いフルフェイスのヘルメット、黒い革のジャケットとズボン(ブランドのロゴ・模様も無し)。
体形:中肉中背
性別:男性
そしてなぜハンドルを離してバイクが転倒しなかったのかという青野からの疑問については、大型バイクの車種がハーレーで、オートクルーズコントロールという速度を一定に保ち、クラッチ操作が不要になる機能を利用しての犯行であったということもわかった。
さらに犯人の逃走経路を特定するために、バイクの追跡調査が重点的に進められていたのだが、住宅街でカメラの設置台数が予想以上に少なく、調査は思いのほか難航していた。
犯人を特定できるような有力な情報がなかなか出てこない中、無情にも時間だけが経過し始めていた。
「う~ん、これ以上の進展がなかなか見込めない状況になってきていますね。こうなってくると、もう誘拐犯からの接触待ちという事になりそうですね。」
青野が姫子に言った。
「青野さん、この誘拐事件は、どうしてこのタイミングで発生したのでしょうね。」
しばらくの間、深く考え込む様子をしていた姫子が、青野の話に答えるというのではなく、あたかも独り言のようにそう呟くと、そのまま今自分が発した問に自分で答えるかのごとく、話を続けた。
「これはあくまで可能性としての話ですが、こんな考え方があります。
脅迫状に書かれたこの一週間という短い期間中に、警護中の佳菜ちゃんを敢えて誘拐した事が『この犯行は、脅迫状を出した人物が行った誘拐である』と、私達に誤解させるため。
このように誘拐のタイミングを動機であるとして考えるとすると、犯人は脅迫状の内容を知る人間であると考える事が出来るんです。
そして、佳菜ちゃんには誘拐を警戒して外出を控えてもらっていました。
それなのに誘拐犯は、佳菜ちゃんが外出する時刻に、首尾良く誘拐を成功させているのです。
ここで考慮しなければいけない重要なポイントがあります。
もしも誘拐犯が、佳菜ちゃんの外出時刻になるまで、望月家の周辺でずっと待ち伏せをしていたのならば、付近の様子を警戒していた青野さんに、不審人物として事前に見つけられていたはずなんです。
ということは、これは事前に佳菜ちゃんの外出予定を知った上での、短時間で行われた犯行と考えるのが妥当なのです。
以上のことから、脅迫状の内容を知り、さらに佳菜ちゃんのスイミングの時刻も把握していた人物が犯行を行ったと考える事が可能になります。
そしてその誘拐犯は、この事件を起こしたという事は、とても大切なある事実には気が付いていなかったようです。
それは、望月氏が脅迫状が届いていて娘が危険な状況にあるという事を、最小限の人間にしか話していないという事実です。
これまでの皆さんから伺っていたお話の中で、望月氏が脅迫状について詳しく話していたのは、本当にその情報がその方に指示を出す上で必要な時だけでした。
つまり犯人が自分の犯行を隠すために利用したはずの犯行のタイミングこそが、私達が誘拐犯を絞り込める重要な要素になっているという事になりえるのです。
脅迫状の内容を知っていて、更に佳菜ちゃんの行動の予定を知っていた人物のみが、犯行を可能にしたという事は、…
青野さん、すぐに灰原さんを調べてみましょう。」
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