第19話 脅迫状の謎を解く

 佳菜ちゃんが何者かに連れ去られてしまった。

 青野は黒川に、犬飼は望月氏に慌てて連絡を入れた。


 二人は急いで望月家に戻り、青野はすぐさま事件の一部始終を姫子に報告した。



 青野からの話を聞き終えた姫子が、ジッと犬飼の様子を見つめていた。


 犬飼は、真っ青な顔をして落ち着きをなくしていた。その隣に座っているさくらも、犬飼の様子を心配そうに見つめている。


 そして姫子は、厳しい表情になり、犬飼の方にゆっくりと近づいて行った。


 「事態は、とても深刻です。佳菜ちゃんの安全の為にも急がなければいけません。


 犬飼さん、今までの脅迫状を送っていたのは、あ・な・た・ですね。」

 姫子が静かに、しかしはっきりと犬飼の目を見ながら言った。


 犬飼が小さくため息をついた。そして、

 「なぜそう思ったのですか。」

 犬飼も姫子の目を見ながら静かにたずねた。



 「それはもう、私にとって明白な事実だからです。今から順にご説明させていただきます。


 まず一通目の脅迫状。これは、夕方下飼さんが買出しに行っている間に、あなたが敷地側から郵便受けに入れたものですね。


 次に二通目の脅迫状。これは、『招待状と一緒に脅迫状を入れた封筒』に、わざと誤った情報を宛名として記入して作成しましたね。

 そして『宛名不完全で配達できません』と押印された封筒が秘書課に戻されるように裏書を会社の秘書課とした。わざわざこんな手段を用いたのは、私たちがお嬢様の警護で望月家に来ていたので、一回目と同じ方法が使えなくなったからですね。


 ちなみに、この封筒を投函したのは、モコちゃんの挨拶事件の時です。投函することに注意がいっていたので、二匹の状況に気付くのが遅れ、救出が遅くなってしまったのがその証拠です。



 ただ私が思うに、この脅迫状は、そもそもが本当に誘拐するという意図で作成されたものではなかったのです。

 望月氏が娘を心配して自宅に一緒にいるようになる事が目的。つまり願わくは、佳菜ちゃんの誕生日を、望月親子が当日に一緒にお祝いが出来るようになればいいという意図で作成されたものだったと推測しています。


 そしてこれは、佳菜ちゃんからお願いされたものですね。自分宛ての脅迫状が届いているのに、刑事が来た事を安心するのではなく、本物かと確認してみたり、怖がることなく外出したいと言う子供は普通いませんからね。」

 姫子は、今までの二通の脅迫状が犬飼によって投函されたことを、その時の状況と共に説明した。


「やはり既に気が付いていたのですね。


 先日、庭の手入れの途中に姫子さんが話しかけてきた時から、もう脅迫状の事は、全てわかっているのではないかと薄々感じていました。

 姫子さんが説明していた通りです。間違いありません。


 いや、一つだけ間違っています。お嬢様は、一切関係ありません。

 全て私が勝手にやった事です。その説明だけは、間違っています。」

 犬飼は佳菜ちゃんの事を必死で守りながら答えていた。


 「素直に本当の事を話して下さってありがとう、犬飼さん。」

 姫子は、脅迫状の投函を素直に認めた犬飼に礼を言った。




 「青野さん、つまりこの誘拐事件は、今までとは全く別の事件なのです。


 これは、佳菜ちゃんを大切にしている人が彼女を思ってしていた脅迫状とは無関係に、新たな事件が起きてしまっているのです。


 佳菜ちゃん達の身に何か起こらないかがとても心配です。急がなければいけません。」

 姫子は、青野に言った。


 

 「脅迫状の件は姫子さんから聞いていましたが、この誘拐事件についてもすぐにそこまで分かるなんて、さすが姫子さんです。」

 やはり姫子さんと感嘆の念を抱きながら答えていた青野。


 「そして犬飼さん、脅迫状の件は、後で改めて私も伺います。」

 青野が犬飼に言った。

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