第18話 事件発生

翌日の夕方。


「モコさく、出発するよ。」

佳菜ちゃんが元気よくスイミングに出かけようとしていた。


 先日と同じように、佳菜ちゃんがモコを、犬飼がさくらを連れ、そしてその後ろを青野が歩くというスタイルでいざ出発。


…しようとしたのだが、先程からモコが出かけるのを嫌がっていた。

どうやら、先日のごゴールデン・レトリバーとの挨拶事件で散歩に行きたくないようだった。


「お嬢様、今日の散歩はやはり中止にして、私達だけで行く事にしませんか?」

犬飼が佳菜ちゃんに優しく聞いていた。


「ううん。モコさくは、お留守番なんてしないよ。一緒に行くの。

さくらは楽しみにしていたよね。さあ、モコも行こうよ。」

先に玄関に向かって歩いていたさくらに声をかけ、佳菜ちゃんはモコのリードを引っぱりながら色々言うが、モコはいつまでも嫌々と足をグッと踏ん張り、その場に留まろうとしていた。


「それなら、最初は抱っこで行く事にしよう。」

佳菜ちゃんは、おもむろにヒョイとモコを抱き上げるとそのまま玄関に向かって歩き出した。


 少し出発までに時間はかかったが、結局お散歩をしながらスイミングに向かう事が決まった瞬間だった。


 スイミングまでの道のりは、住宅街を通るコースである。

 あまり道幅が広くないので、佳菜ちゃん、犬飼、青野と一直線に並ぶようにして、道路の端を歩いていた。


 モコは、何度も自分で歩かせようと道路に下ろしてはみたが、頑として歩こうとしなかった。こうして結局お散歩のはずなのに、佳菜ちゃんがそのまま抱いて歩いていた。




 真っ直ぐな通りを3人で縦に並んで歩いていた時、後ろから一台の大きなバイクが近づいてきていた。


 ゆっくりな速度で青野と犬飼を抜き、佳菜ちゃんの横を通り過ぎようとした次の瞬間、運転手が両手でパッと佳菜ちゃんを抱え上げた。


 「!!!」

 青野が急いでバイクに駆け寄る。しかし、それとほぼ同時にバイクも急加速をした。


 青野はなんとかバイクの後ろを掴もうとグイっと手を伸ばした。

 しかし、ギリギリその手は届かず、バランスを崩した青野はそのまま前に転倒した。


 佳菜ちゃんは、抱いていたモコと共に一瞬のうちに連れ去られてしまった。


 突然の出来事に、驚きのあまりその場に立ち尽くす犬飼。

 さくらは、珍しく大きな声でその場で吠え立てていた。


 青野はすぐさま顔を上げ、必死にバイクの後ろ姿からナンバーを確認しようとした。しかし、そのバイクのナンバープレートには泥が付けられていて、数字を読むことは出来なかった。

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