第15話 女性秘書

 佳菜ちゃんの不要な外出は控えてもらっていたこともあり、警護開始から二日間が、何事も無く経過していた。


 午後二時半頃、女性秘書の向村が荷物を届けに望月家にやって来た。

 おとといの夜、望月氏から『次に彼女が来るのは、今日の午後』と予定を言われていたとおりである。



 「初めまして、向村さん。こちらで警護をしております青野と申します。


 先日荷物をこちらに届けた時の事を教えていただけませんか。」

 会長の部屋に荷物を置き、戻ってきた向村に、青野が話しかけた。


 「はい。本日は、会長からも警察の方に話をしてくるように言われております。

 一体どんな事を話せば良いのでしょうか?」

  すっかり緊張した面持ちの向村が答えた。




 「その日こちらには、何時頃着いたのか。

 そしてどの位滞在していたのかを話して下さい。」


 「着いたのは、今日と同じ位の時刻だったと思います。


 いつも同じように昼休み後に準備をしてから出発していますので、大体お昼過ぎになるのです。

 荷物を運んだ後、下飼さんから一息入れる為のお茶を頂いて、その後こちらを出発しました。


 私も会社に戻るのが遅くなってはいけませんし、下飼さんも買出しに行く予定がありましたので、休憩もあまり長い時間では無かったと思います。


 だから会長宅にいたのは、三十分位だったと思います。」


 「そうですか、どうもありがとうございます。


 ところで下飼さんとは随分親しく話していたようですが、秘書課で仕事が一緒だった時期でもあるのでしょうか?」

 青野が聞いた。


 「はい、そうです。

 下飼さんがこちらに来る前まで、ずっと一緒に働いていました。いつもお優しい方で、色々お仕事を教えていただいていた頼りがいのある先輩でした。


 でも下飼さんは、以前からとても料理上手というお話を聞いていましたから、今のこのお仕事も向いている気がします。

 その事は、最初にここに来た時も話しています。」



 「それでは次に、あなたが会長付の秘書になってからは、どの位経っていますか?」


 「二年です。

 前任者がご主人の転勤の付き添いでご退職されて、私がなりました。

 数年おきに定期的に変わっている男性秘書と違い、女性秘書は一度担当になると、上司との折り合いが悪くない限り変わらないのが普通ですので、私も出来るだけ長く続けられるようにしたいと思いながら続けています。」

 青野との話が終わると、深く一礼して車に向かい、今日はそのまま会社へと戻っていった。


 最後まで緊張しながら、向村は答えていた。

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