第13話 ハプニング

 「お嬢さま、スイミングに行くお時間になりました。」

 犬飼は、庭の水やりを終えてから散歩用のリードを犬達に着けた。それから佳菜ちゃんの部屋の前まで行き、ノックをしてから扉を開け、入り口で声を掛けていた。


 「はあい、待ってました。」

 犬飼のいる入り口まで、元気よく佳菜ちゃんが飛び出してきた。


 「ところでお嬢様、行きはお散歩で参りますが、帰りは私達だけで戻ってくる予定になります。よろしいですね。」

 出発前に、犬飼が佳菜ちゃんに告げた。



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 ~ 少し前の時間 ~


 「スイミングからの帰り道は、もう薄暗くなる時刻です。その中を犬と一緒に時間をかけて帰るのは、大丈夫なのでしょうか?」 

 犬飼が私達に相談にきていた。


 「そうですね。それでは私がスイミングの入り口で待機していますから、その間に犬飼さんは一旦戻りますか?」

 青野が提案してきた。


 「どうもありがとうございます、ぜひそうさせて下さい。

 私は犬と一緒に急いで帰り、また一人で戻って参ります。」


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 「えっ、帰りもお散歩じゃないの?どうして?」

 佳菜ちゃんが不満そうに聞いてきた。


 「暗くなる前に帰れないと危険です。しかもお嬢様は練習後でとても疲れていますし、少しでも早く戻れるようにしましょう。


 また次の練習に行く時に、一緒にお散歩して下さい。」

 犬飼がゆっくりと言い聞かせるように話した。


 「はあい、分かりました。」

 佳菜ちゃんが、しぶしぶ了承した。


 「…あっ、モコは佳菜が連れて行くからね!」

 そう言うと、佳菜ちゃんは玄関先で下飼が連れて待っていたモコとさくらのリードのうちモコのリードを受け取り、玄関へと向かった。

 


 「行ってらっしゃいませ。頑張ってきて下さいね。


 夕食は、お嬢様の好きなハンバーグを作っておきますね。」

 玄関では、お見送りで待っていた下飼と姫子が見送っていた。





 下飼が夕食の支度を終え帰る準備をしていた時、犬飼は足早に戻って来た。

 しかもその姿を見ると、散歩中のはずなのに一匹の犬を抱っこしていた。


 「ただいま戻りました。

 二人とも疲れているから多分ずっと寝ていると思いますが、念のためモコには近づかないようにして下さい。

 もしかしたら怖がって噛んでしまうかもしれません。」

 抱いていたモコをクッションに静かに下ろしながら犬飼が言った。

 そしてさくらは、モコの隣のクッションに自分で寝そべっていた。



 「お帰りなさい。モコちゃんに何かあったのですか?」

 下飼が少し慌ててたずねた。


 「あっ、帰宅前の忙しい時にすみませんでした、大丈夫です。

 ちょっと散歩中のモコに怖い思いをさせてしまって…。


 下飼さん、今日はお疲れ様でした。気を付けて帰って下さい。

 姫子さん、バタバタしていてすみません、私は今からすぐにスイミングに戻ります。」

 犬飼は、下飼と姫子に軽く会釈をすると、すぐに出かけて行った。






 「モコさくただいまぁ。あれぇ、モコは?」

 佳菜ちゃんが扉を開けると、姫子とシッポを振りながら近寄って来たさくらだけがお出迎えをしていた。


 「お嬢様すみません。モコは、休んでいるのだと思います。どうかそっとしておいてあげて下さい。

 

 実は先程の帰り道で、ゴールデン・レトリバー三匹に囲まれて、怖い思いをしてしまったんです。」


 「ええっ!そんな怖い犬に襲われちゃったの?」

 佳菜ちゃんが驚いていた。


 「いいえ、優しい犬達でしたよ。彼らは、ただ喜んで挨拶をしてくれていただけなのですが、うちの子達が小さいから結果的に大きな犬達に囲まれてしまった状況になったんです。


 モコ、本当に頑張っていたんですよ。周りに来た彼らを見て怖くなったさくらが、モコの後ろに回り込んだんです。でもモコは逃げたりせずに、そのまま仁王立ちになって舐められてました。

 私が気が付いてから、慌てて二匹を抱き上げて救出したんです。

 

 彼らと別れてから二人を下したんですが、もうモコはその場から動こうとはしませんでした。」


 「すごい、さくらを守ってくれたんだ。モコはやっぱり男の子なんだね。

 さくら良かったね。

  

 そんなに頑張ったのなら、モコはゆっくり休まないとだね。」

 佳菜ちゃんがモコの方を見てガッツポーズをした後、ダイニングへと向かった。

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