第5話 一人目の使用人
「よろしくお願いします。」
食事が終わると、佳菜ちゃんが青野と姫子の所に小走りでやって来て、きちんとお辞儀をしながら挨拶をしてくれた。
「どうやら佳菜に気に入られたようですね。
好き嫌いがはっきりしている子なので少々心配していましたが、安心しました。
私からも、どうぞよろしくお願いいたします。
時間が短くて申し訳ないが、そろそろ出勤時刻です。
それでは、私はここで失礼させていただきます。」
望月氏は、立ち上がると会釈をして、ダイニングを出ていった。
「犬飼。」
部屋を出たところで、彼が少し大きな声で名前を呼んだ。
すると玄関の方から一人の男が近づいてきた。まだ聞いていた出勤時刻の九時前だったが、どうやら朝食会の間に出勤していたようだった。
「はい。おはようございます、会長。」
望月の前まで来ると、スッと姿勢を正して犬飼が、静かに答えた。
(あれは?)
犬飼の後ろから、やはり静かに、でもシッポをフリフリと動かしながら二匹の犬も付いてきていた。
「ワンワンワンッ。」
急に一匹の犬が、吠えながら部屋の入り口まで駆け寄ってきた。どうやら部屋の中にいる私達二人の気配に気が付いたようだ。犬飼のやや後ろから、こちらに向かってまだ吠えている。
「こらモコ、静かにしなさい。
お客様だよ。怪しい人たちじゃないから。」
犬飼が優しい声で注意しながら、吠えていた犬をスッと抱き上げた。
すると抱かれた犬はすぐに静かになり、もう犬飼の顎をペロペロ舐めている。
そしてもう一匹は、吠える事も無く静かに犬飼の足元まで来ると、きちんとお座りの姿勢をしながら彼を見上げていた。
「おはよう。
モコとさくらもおはよう。二匹とも今日も元気そうだな。」
望月氏が笑顔で犬飼と一緒に来た犬達に挨拶をしていた。
「こちらの二人は、青野刑事と姫子さんだ。彼らが一週間佳菜の警護をして下さることになった。
今週中は、何か普段と違うことが起きたら、すぐ二人に報告するように。
私への報告は、緊急以外はいつも通り帰宅後でいい。
もしも連絡の判断に迷うような事が起きた時は、まず二人の指示に従うように。」
もう会長の顔つきに戻った望月氏から犬飼へ、自分が不在中の指示が出された。
「承りました。
青野刑事、姫子さんどうぞよろしくお願いいたします。」
犬を抱いたまま、犬飼が私たちに一礼した。
「会長、入り口にお車の準備も出来ております。」
望月の方に向き直った犬飼が伝えた。
「うん、ありがとう。
それでは佳菜、行ってきます。」
望月が佳菜ちゃんの方を見ながら笑顔で挨拶をしていた。
「行ってらっしゃい、パパ。」
佳菜ちゃんが手を振りながら挨拶をしている。
「行ってらっしゃいませ。」
犬飼も続けて言う。そしてしっぽを振って犬達もお見送りをしていた。
犬飼と二匹の犬にも笑顔のまま軽くうなずいてから、望月氏が出かけて行った。
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