第4話 朝食会

 「おはようございます。警視庁捜査一課から参りました青野と純情です。」

 青野がインターホン越しに応答している。


 普段自分の事は名前で呼ぶようにしてもらっている姫子だが、初対面の望月氏には、当然苗字で紹介されてしまう。


(出来れば、朝食会が終わる頃までには姫子と呼んでもらえるようにしたいものね…と姫子はいつもの小さな野望を持った。)


 「おはよう。朝早くからすまなかったね。


 車は入って左の来客用のスペースに止めるように。

 玄関は、停めた脇の階段を登ったところだ。」

 インターホンから望月氏がテキパキと指示をだしていた。


 インターホンのやりとりが終わると、車が通るサイズの大きな門が、スウーっと音もなく開いた。


 言われたとおりに車を停め、二人は玄関に向かった。


 「インターホンの上に設置してある防犯カメラ。あのカメラが、郵便受けの投函者や門の前に来た人物を映しているのね。」

 姫子と青野は、カメラの位置や周囲の様子を確認しながら歩いていた。



 玄関を入ると、そこで望月氏・娘の佳菜の二人が出迎えてくれた。



 「佳菜、今日から一週間、お前の警護をしてくれる刑事さん達だ。青野さんに純情さん。」


 「刑事さん?本物の?」

 佳菜ちゃんがクリクした瞳で見つめながら、父に確認をしている。


 「そうだよ。わがまましてご迷惑をかけちゃいけないよ。」

 望月氏が優しく話していた。



 朝食会は、ダイニングで行われた。


 望月財閥会長の自宅は、大豪邸ではなく、品の良い邸宅という印象であった。

部屋に入ると、六人がゆったり食事を出来る位の広さのテーブルの上には、既に綺麗に料理が並べられていた。


 姫子の予想通り、食事はお取り寄せされたものだった。

 メニューは和食。洋食を想像していた青野は料理を見た瞬間、少しだけ落ち込んでいたが、どれも上品な出汁が効いた味付けで、食べ始めるとその美味しさに満足して、幸せそうに食べていた。


 食事中、二人に興味津々の佳菜ちゃんが、食事よりも優先して二人に色々話しかけて来ていた。


 「純情さんって苗字、私初めて聞いたよ。」

 佳菜ちゃんが苗字の事を珍しそうに聞いてきた。

 

 「そうね、私の苗字は確かにあまり同じ方がいないかもしれないわね。

 それじゃあ、姫子という名前は、聞いたことがあるかしら?」


 「うん、あるよ。クラスのお友達にもいるもの。

その子は『姫ちゃん』って呼ばれているんだよ。」


 「そうなんだね。それじゃあ、佳菜ちゃん。一緒にいる間、私の事はなんて呼ぼうか?」


 「姫ちゃんっていうよりは、『姫子さん』って感じかな?」

 佳菜ちゃんが楽しそうに答えた。


 「素敵な呼び方だね、ありがとう。佳菜ちゃん、これからは『姫子さん』って呼んでね。」

 姫子は、自分が望む名前で呼ばれることになり、嬉しく思った。



 「青野さんは、イケメンの刑事さんなんだね。」

 佳菜ちゃんが今度は青野に話しかけてきた。

 

 「えっ、イケメン!?そんな事ないよ。」

 青野は照れながら否定していた。


 「ところで姫子さんも刑事さんなの?」

 佳菜ちゃんが姫子に聞いてきた。


 子供でも疑問に思うのは、当然だった。

そう姫子は、優しい面持ちの少し動作がゆっくりとしたご婦人なのである。とても佳菜ちゃんがイメージしていたような刑事には見えなかったのであろう。


 「佳菜、実はね姫子さんは探偵さんなんだよ。それも今まで数々の事件を解決に導いた名探偵さんなんだ。

 パパも警視庁のお友達からその話を聞いて、一度会ってみたいと思っていたんだよ。」  

 望月氏がすぐに姫子が刑事ではない事を訂正していた。


         


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