第3話 そして望月家へ

 「おはようございます、姫子さん。

 青野です。」

 インターホンから青野の少し眠そうな声が聞えてきた。


 現在の時刻は、午前五時。顔を出したばかりの太陽の光が、まだ白くなる前だった。

 このような早い出発時間には、理由があった。

 望月氏から誘われた七時から始まる朝食会に間に合わせる為である。


 因みにその開始時刻は、望月氏が仕事に間に合うようにと設定された時刻であった。今日が警護初日なので、娘佳菜に二人を紹介しておきたいとの事だった。



 昨日、黒川の電話が終わった後、すぐに黒川・青野が姫子の自宅にやってきた。

 そして彼らから、姫子は望月家の家族構成や使用人についての説明を受けた。


 その後は、脅迫状を見ながら、事件へ発展するかの可能性も含めた意見交換や、情報共有が行われた。


 姫子は、二人が帰った後は、翌日に備えてすぐ眠ったのだが、青野達は警視庁に戻って仕事をしていた。

 さすがに若さだけでは補えない程の睡眠時間しか取れなかった青野が、いつもの爽やかさを迎えに来るまでに完璧には取り戻せなかったのも、無理のない話だった。




 「望月家の朝食は、どんなご馳走なんだろう?」

 時間が経つにつれて目が覚めて元気になってきている青野が、運転をしながら嬉しそうに呟いた。


 「望月氏が紹介された記事に、数々の経営術は取り上げられていたけれど、料理自慢の話は無かったから、きっとお取り寄せのご馳走なのではないかしら?朝食会は、お手伝いさんの出勤時刻より随分前ですものね。


 料理だけの話ではなく、そもそも家事は、生前は奥様が全てされていたんですものね。しかもお手伝いさんが入ったとは言っても、通いだったわね。

 望月氏は、きっと家事で苦労をされている事でしょうね。」

 姫子が昨日聞いて整理した情報を青野に確認するように答えた。




 望月家の家族構成は、父・娘の二人。妻は、三年前に病気で亡くなっている。



 使用人は、男女一名ずつの計二名。どちらも平日に通いで働いている。土日は、望月氏が外出している日のみ男性が出勤する。



 男性の使用人の名は犬飼。九年前から働いている。庭の手入れと佳菜の教育係を兼任している。朝九時から望月氏の帰宅までが彼の勤務時間。



 女性の使用人の名は下飼。三年前から働き、家事全般を担当している。勤務時間は、十時から五時、夕食の準備を終えた後に帰宅する。

 現在は、娘が夏休み期間中なので、昼食も作っている。普段は、学校で給食を食べているので、娘が長期休暇の間に発生する追加業務との事だった。


 望月家には、他にも運転手が出入りする。

 望月が車で出勤しているので、その移動時刻に合わせての出入りだ。


 当初望月家では、妻が全ての家事を切り盛りしていたので、一人も使用人は居なかった。やがて、妻の出産を期に犬飼が、そして亡くなってからは下飼が働き始めたという事だった。


 以上が現在まで分かっている、望月家の人物相関図だった。



 家族構成や、使用人の事を姫子が頭の中で整理しながら移動していると、車は望月家に到着した。

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