第2話 姫子への依頼

 脅迫状が警視庁に届くと、当然のことながら、それの事件発展への可能性が検討された。


 指紋も無く・消印も無い。


 そして、一番厄介なことは、直接投函されたはずの玄関前の防犯カメラに、投函した人物が一切映っていなかったという事。


 夕方、毎日ほぼ同時刻に、お手伝いさんは郵便物を取りに行く。

それらは、望月氏の書斎に置いてある書類箱に、整えられて置かれる。


 深夜、仕事から帰宅した望月氏が書類の確認をした時、郵便物の中に脅迫状が紛れていたのが発見された。


 従って、前日の郵便物を取りに行ってから発見された日までの時刻の防犯カメラの映像に、投函した人物が映っていなければいけなかった…。

 しかし、映像には、郵便受けに脅迫状を投函したような怪しい人物は、一人も映っていなかったのだ。



 ここで、部外者の質の悪いイタズラである可能性が低くなり、一気に警戒が高まったのである。


 ちなみに、望月氏の書斎前にも、中に金庫が置かれているので防犯カメラが設置されている。

 その映像も確認されたが、やはり郵便物が置かれてから望月氏が帰宅するまでの間に、誰も部屋に入った者はいなかった。


 これらのカメラに映っていないということは、脅迫状は『取り出し口側』、つまり敷地内から郵便受けに入れられた可能性が非常に高いという事が考えられた。



 望月氏の近くの人間で、彼本人か娘に、怨恨を抱く者がいるという事なのだろうか…?


 現状では、これがイタズラなのか、本当の犯行予告なのかを情報が少ない為、判断する事が難しかった。




 



 残された時間が、とても短く感じられた…。

 望月家に脅迫状が投函された日に出入りした人間を含め、居た人物について詳しく調べるには、やはり潜入捜査が一番迅速な方法。

そう結論が出たのだった。


 こうして警護をしながら、脅迫状の投函者の割り出しを進めることになった。


 だが、ここで一つの新たな問題が発生。

 捜査一課の顔ぶれだった。ベテランになるほど事件の経験が人相を作るのか、強面揃いなのである。子供から慕われる顔つきからは、程遠いものだった。


 そんな中、青野が適任と黒川が推した。更に姫子を相談役として同行者に付けることも、その推薦には含まれていた。



**************************************


「姫子さん、黒川です。最近どうですか?」

黒川から姫子に連絡が入った。


「あら、黒川さんお久しぶりです。元気にしていますよ。

黒川さんこそお元気ですか?」


「ああ、元気ですよ。相変わらずの生活ですが、体が頑丈なんでしょうね。


ところで、姫子さん。明日から一週間お付き合いいただけませんかね。」

黒川は、いつもダイレクトに用件を伝えてくる。


「一週間ですか。珍しく期間が決まっているのですね。

どんなお話ですか?」

黒川からの期間が決まった依頼は、初めてであった。


「望月財閥会長の望月氏はご存じですか?」


「ええ、知っていますよ。経済界ではとても有名な方ですよね。」


「そう、その望月氏です。

実は、その望月氏の娘への脅迫状が届きました。

会議の結果、娘さんを警護することが決まったんです。


期間は、一週間。そしてその間に、脅迫状を投函した人物の特定もしたい。」


「短い期間ですね。でも、その期間で特定をするのですね。

やはり事件にはしたくないですものね。」


「ええ、その通りです。


 明日からの望月家への往復は青野がします。

 そして、望月家では、二人で警護をお願いすることになります。」


「あら、黒川さんは同行しないの?」


「ええ、刑事一人というのが望月氏の希望でしたから。

小さな娘さんが警護の対象なので、話し相手として姫子さんも加えたいという話は、望月氏からもギリギリ許可が下りました。


まあ、姫子さんは有名人ですから、興味本位もあるのかもしれませんがね。」


「それは光栄なお話ね。ちなみに、何歳のお嬢さんなの?」


「九歳です。」


「分かりました。」


「ありがとうございます。

では、青野とこれから伺います。詳しい話はそこで。」

姫子の警護の了承が得られた黒川の電話は、そこで切れた。

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