第二章 3月 駒
3月01日 信頼
「前田警部!事件です。」
榎本が大声を上げる。
事件の内容は単に殺人だ。
「今日の朝、近隣住民によって発見されたらしいです。すでに川瀬が向かっています。」
「わかった我々もすぐ行くとしよう。」
現場にはすでに大勢の鑑識、マスコミ、記者が立ち並んでいた。我々より情報の収集が早いなんて困るものだ。
「一体、殺されたという人は誰だったんだい。」
前田と榎本は現場のあった民家へ入っていく。この民家というのは尾張一宮駅から車で数分の土地にある。
「多磨 純一です。性別は男、西英製薬の社長の秘書です。」
「だがこれも、部屋はよく荒らされたものだなぁ。」
前田がため息をつく。
「それと、ダイイングメッセージのようなものが見つかっています。」
「ほうほう。これか。」
多磨の右手の指先に血で「楽」という漢字が書かれていた。また、メッセージかどうかはわからないが左手は指をさした状態で地面についていた。
「指先には何があるのか、この散らかった部屋ではわかりませんね。」
榎本が苦笑した。
とにかく前田は、鑑識に部屋の写真もすべて撮るように命じ、凶器となったナイフを待ちあげる。
「市販の包丁ですね。」
「そうだな。これで背中をぐさっとやったんだな。」
だがしかし、西英会社の社長の秘書が殺されたということで、世間は一回騒ぎになりそうだなと、前田と榎本は確信した。
現場にて第一発見者となった、近隣の住民に話を聞くことにした。
「あなたが見つけた時にはもうなくなっていたんですね。」
「そうよぉ。ほんとにびっくりしちゃったは。今日の朝にね、純一さんにあさごはんの差し入れを持ってきたのよ。ノックしても出ないから扉を触ったら開いていたの。」
「なるほど。そこで多摩さんを見つけたわけですね。」
「はい。」
「ご協力ありがとうございました。」
第一発見者はよれよれのおばあさんだった。前田はこのおばあさんには背中に奥深く包丁を刺せないだろうと警戒はしていなかった。
~~~
次回:3月2日(前編)裏切り
4月30日公開予定
お楽しみに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます