第37話 ストーカー紛いの尾行


「……痩せたな」

「ありがとう」


 部屋から出て来た栞は、そう言ってほほ笑むとソファに座る。


 褒め言葉のつもりじゃない。

 顔がげっそりしているが、まともにご飯を食べていないみたいだ。

 もう昼になるが、ようやく部屋から出て来た。


 大学にも行っていないみたいだ。

 それどころか、部屋から外に出るのも珍しいぐらいだ。


 俺も大学には数回行ったぐらいで、沢山の視線が四方から突き刺さってからあまり行っていない。

 出なきゃいけない講義には出ているが、栞は出ていない。

 そろそろ無断欠席ばかりしていると、単位が取れなくなるから心配だ。


「今日、何も食べてないんじゃないか?」


 あれから二週間経った。

 ネットは静かなものだ。

 予想通り、毎日ネットニュースが流され、俺達底辺ShowTuberのことなんて世間の人達は忘れている。


 炎上した某ShowTuberが休止明けの復活配信で、平然とスパチャを解禁してそれが赦された事件は記憶に新しい。

 普通だったらもっと炎上するはずだったが、お咎めなしだった。


 まあ、そんなもんだ。

 結局、噂なんてすぐに消えるもんだ。

 騒いでいる連中のほとんどは、物珍しいから集まっていただけ。

 あれから毎日DMに殺害予告を残す人はいるけど、まあ、慣れてきた。

 同じ文章だからコピペしているだけで、実行に移すほどの情熱はないだろうな。

 あまりにも続くようだったら、法テラスに相談することも考えている。


「食欲ないから」

「ゼリーなら食べられる? 買って来たけど」

「……ありがとう、後で食べておくね」


 栞はそう言うと、水だけ飲んで玄関へ向かう。

 結局、何も食べないつもりか?


「どこかに行くの? 一緒に行こうか」

「ううん、いい。えー、と近くのコンビニに行くだけだから」

「そうか……」


 適当にコンビニって言っただけだな。

 嘘をついているのか、それとも行く場所を決めていなくて適当に答えただけなのか。

 どちらにしても見過ごせない。


 部屋にいる時は物音一つない。

 スマホでエゴサをずっとしているようだ。

 病んでしまうから辞めるように言ったのだが、ずっとしているらしい。


 ストレスで寝られていないみたいで、眼の下にクマができていた。


「行ってきます」

「行ってらっしゃい」


 扉が閉まる。

 フト見ると、スマホをソファに置いたままだ。

 肌身離さず持ち歩いていたスマホを手放すなんて、相当重症だ。


 このまま一人で行かせていい訳がない。


「後を尾けるか」


 嫌な予感がする。

 ストーカー紛いのことをするのは気が引けるが、杞憂で終わってくれればそれでいい。


 俺は急いで準備すると、栞にバレないように尾行を始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る