第36話 謝罪動画に対する世間や視聴者の反応集
謝罪動画を上げてから一日が経過した。
動画のダイジェストは大体こうだ。
まずは、挨拶。
「動画を観てくれた皆様。今回はいつもと違った動画となっております」
いつもの動画では着ないスーツを着て、反省しているように見せる。
そして、動画の概要をまず説明する。
そうしないと、視聴者の頭に内容が入ってこないからだ。
「昨日頃から炎上していることを知らない方がもいるでしょうが、今回の動画のタイトルで察している方もいると思います。今回の動画は謝罪動画となっております。ワタクシ、タクさんこと巧とシオこと栞は、カップルと言いながら数ヵ月前に別れていました。カップルチャンネルでありながら、別れた後も動画を上げ、カップルを続けていたことを偽ったことを、ここに謝罪します。本当に申し訳ありません」
炎上した原因を、まず真摯に謝罪する。
怒っている人の多くは、騙されていたことよりも、騙されていたことを隠していたことに怒る人が多い。
アイドルが結婚を発表した。
アイドルの交際が発覚。結婚も予定していて、ファンを裏切る。
同じことを言っているが、受け取り方はまるで違う。
だから隠していたことについても説明した。
「どうしてこうなったのかといいますと、全て私の我が儘です。ずっと動画投稿者というのに憧れており、このままずっとShowTubeでの活動を続けていきたいと思い、栞と別れたことは皆様には黙っておりました。今思えば本当にバカだったように思います」
ファンの心を揺さぶる為に、引退も暗に示唆する。
自ら言う事によって、そこまでしなくてもいいんじゃないかと、同情を誘うような言い方にした。
「皆様の中には、さっさとShowTubeを辞めろとおっしゃる方もいると思いますが、今はまだ決まっておりません。ただ、俺と栞とでカップル動画を今後上げていくことは不可能かと思われます。溜め撮りしている動画もありますが、それも投稿する予定はございません」
動画の溜め撮りは、どんな結果になろうと投稿する予定だ。
仮にShowTubeを辞めることになっても、これが最後だと分かれば再生数は稼げるだろう。
なるべく惨めに、なるべく同情を誘うように仕向けたい。
謝罪動画で癇に障る謝り方は、炎上したけど、私は平気ですアピールだ。
ヘラヘラしていたり、何で炎上したのか分かりませんなど太々しい態度を取っていたら火に油を注ぐことになる。
謝罪動画をわざわざ観に来る人は、よっぽどのファンか、重箱の隅を楊枝でほじくりに来たアンチのどちらかだ。
なるべく平身低頭の精神でいるべきだ。
「栞と話し合い、また、皆様のご意見を聞いた後に、今後の活動方針をまた動画でご報告したいと思います。今回の件は真摯に受け止め猛省しております。本当に申し訳ありませんでした」
そして、ファンの目線に立った考えを入れる。
丁寧に説明した後ならば溜飲が下がっているので、今後の方針を喋っても怒られないだろうという算段だ。
冒頭でいきなり今後の動画の上げ方は~なんて言ったら、ブチ切られるから話の順序は大変だ。
そして、最後に謝罪の言葉を入れて終了とした。
動画の内容は何度も精査して、投稿して様子を見ることになった。
講義はあったがずる休みした。
正直、講義に出るような精神状態じゃなかった。
「批判書かれているわね」
自宅で栞の二人と、スマホやパソコンを観ながら動画の感想をエゴサしてみた。
SNSのアカウントには好意的なコメントばかりだったが、動画は批難一色だった。
同調圧力だろう。
賛成意見も反対意見も、どちらにしても数の暴力で圧殺されるものだ。
ただ、アンチコメントには無視できないコメントもあった。
何、これ? 謝罪になってなくない? 何か鼻につくんだけど、こいつのコメント。視聴者の為みたいな感じで言っているけど、それって視聴者のせいにしていることでしょ? 別れていたことを隠していたことも、撮り溜めていた動画を投稿できないのも、全部自分達のせいでしょ? なんでこんなに被害者ムーブしてんの? 頭おかしいでしょ? 初めてこの動画観たけど、みんなが言うほどタクとかいう奴イケメンじゃないだろ。信者って盲目なんですね。こんなしょうもない謝罪一本で許すとかないわ。配信でスパチャしてた奴等、今どんな気持ち? 本当に悪いと思っているなら、スパチャ全額返却しろよ。
とまあ、洪水のように頭の中にアンチコメントが流れていった。
けど、図星を突かれている部分もあった。
俺が動画で言った言葉の中に、視聴者のせいにしているように聴こえる部分も確かにあったのだ。
四人で話し合っても、漏れは出るものだ。
それでも、批判の一部だ。
「私への批判が多いわね……」
「そう、かな……」
誤魔化し切れなかったのは、栞にも伝わったようで顔が曇る。
批判のほとんどは栞に集中していた。
前々からこの女ブス過ぎて嫌いだったけど、こいつのせいだよね? そもそもこんなことになったのは。タクさんは騙されていただけ! 悪いのはこのブスだから!! 私と付き合って!! 指輪外していた画像見たけど、束縛され過ぎて嫌になったんでしょ? だったら原因はこの女の方だよね。動画で喋っているのタクさんがほとんどだよね? 本当に反省しているならもっと話せよ。大学で観たことあるけど、嫌がっているタクさんにストーカー紛いのしつこさで追いかけてたけど。だったら別れて正解じゃね? タクさんを批判している人もいるけど、話はうまいし、企画考えているのもタクさんだから。別れて他の女の人カップル動画上げた方が、タクさんの為になると思うけど。
と、あることないこと、コメントで書かれていた。
俺達のチャンネルの視聴者層のメインは、女性だ。
しかも、俺のファンが多かったらしく、栞に対する誹謗中傷で埋め尽くされていた。
中には動画に関係ないことまで書いている人も多く見られていて、なんだか栞の様子が変だ。
「あっ」
パリーン、と栞が手に持っていたグラスを落とす。
コメントを見て動揺したのだろう。
フラッ、と今にも倒れそうな栞を見て、俺はグラスの割れた欠片を片付けしようとした栞を静止する。
「いいから、いいから。俺が片付けるから」
「でも……」
「とりあえず、今日はもう部屋で休んでいていいから。食事も俺が作る」
「う、うん……」
遠慮する元気もないといった様子で、自室に戻って行く。
手が震えて、唇も青紫色になっていたけど、大丈夫か?
数万人に否定されれば、そうなるか。
栞はいつも強気なことが多いが、あれは弱さの裏返しだ。
心が脆いから、誰かと話す時は機先を制しているだけだ。
かくいう俺もメンタルが強いわけじゃない。
ずっと気分が悪いし、胃が痛い。
炎上騒動なんて一週間も続かない。
そう分かっているのにこんなにキツいなんて。
「ん?」
RINEでカザリちゃんから連絡が入る。
――どうですか? 元気ですか?
と、まるで意味のない文章が送られてきた。
久羽先輩だったら返していたかもしれないが、今はテンションの高いカザリちゃんに合わせる余裕がない。
それに、グラスの片付けもある。
気が付かなかったことにしよう。
幸い、まだ既読はついていない。
夕食の準備が終わってから連絡しても間に合うはずだ。
そして、俺はスマホをソファに投擲した。
が、RINEのことを忘れて、返信するのが就寝前になってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます