第19話 コラボ企画と動画投稿予定(1)
2人が風呂に入っている間に、朝御飯を用意しておいた。
食材に余裕があったのでちゃんと3人分作れたのだが、作っている間に問題が起こった。
「風呂場に乗り込んでくるかと思って焦ったわよ」
「悲鳴上げるから、何事かと思ったんだよ」
栞に小言を言われるが、こっちはこっちで助けようと思っただけで痴漢扱いは止めて欲しい。
料理を作っている時に、栞が悲鳴を上げたので扉の前まで行ったら、まずレースの刺繍が入っている下着がその辺に置いてあったビックリした。
風呂の磨りガラス越しに、大丈夫か? 栞、と言ったのだが、
――来なくていいからっ!!
――入ってきていいですよぉ!
栞とカザリちゃんから矛盾した言葉が返って来て動転した。
風呂から上がってから事情を聴いたら、冷たい水を浴びせられて悲鳴を上げたらしかった。
なんで、二人で朝シャンしているのかは、結局説明聴いても分からなかったな。
でも、本当はちょっと乱入したかったな。
「カザリちゃんも平気だった?」
「はい! 私も冷水かけられたけど、風邪は引いてません! ちゃんと、新しいパンツも持ってきていたので穿きました!!」
「うん。後半部分の説明は要らなかったね」
というか、下着、用意していたんだな。
朝、カザリちゃんが起きていたから挨拶した時に歯磨きをしていたから、なんで歯ブラシ持ち歩いているんだと思ったが、下着まで持ってきているとは思わなかった。
カザリちゃんの持っていたバッグは大きかったけど、まさか着替えまで入っているなんて思わなかった。
最初から泊まる前提の荷物だったみたいだけど、女の子はみんなそんなもんなのかな?
よく分からない。
「カザリちゃんもご飯食べるよね?」
「えっ、いいんですか? お腹減っていたので嬉しいです!」
「パンでいい? 一応、ご飯もあるけど?」
本日の朝の献立。
食パン、スクランブルエッグ、ベーコン、トマトやキャベツなどの野菜、コンソメスープ、牛乳。
等々と、どちらかというとパンに寄せた朝食になっている。
これでご飯がいいと言われたら、昨日の残りの味噌汁とか、漬物残りとかあるから、献立の差し替えもできる。
「はいっ!! タクさんの手料理が食べられるなら何でもいいです!! 写真撮っていいですか?」
「……そんな大層なものじゃないと思うけど」
「大層なものですよ! 写真を現像して写真立てに飾りたいです!!」
「そこまで!?」
女の人と喋る時に自炊していることを喋ると、料理できるの!? と食いつかれることがおおいけど、普通の料理を普通に作れるだけだ。
凝った料理は作れないし、作る気力がない。
同棲してからは特にそうだ。
2人分の料理を作るのに時間がかかるようになったので、鍋とかカレーを作り置きすることが多くなった。
朝はご飯派だったけど、最近パン派になってきた。
パンだと、チーズやベーコンを乗せてピザ風にしたり、チョコレートやハチミツを乗せてスイーツ風にしたりできて、おかずを減らせて手間が減る。
だから、パンのストックを欠かさないようになってきたな。
パン、最高。
「食べられない量なら遠慮せずに言っていいからね。残ったおかずはサンドイッチにでもして、お土産にあげるから」
「ええっ。いいですねぇ、それ! わざと残したくなってきました!」
「残さなくていいから」
男と女の食べる量は全然違うからな。
ダイエットしているかどうかでも違うだろうけど、俺の食べる量の三分の一とかでもお腹いっぱいっていう人もいるし。
普通に、栞と同じぐらいの量のご飯作ったから、食べられるか分からない。
「……なんか、水上さんにだけ優しくし過ぎじゃない?」
「栞は食べる量分かっているからな」
仮に栞が食べ物を残しても、ラップかけるなり、ジップロックするなりで保存すればいい。
けど、カザリちゃんはそうもいかないから、色々と尽くしているだけだ。
料理作る前に、どれだけ食べるかを事前に訊いておけば良かった。
訊く前に、風呂場に突入したから聞きそびれたんだよなあ。
「カザリちゃん、テレビつけていい?」
「? はい、どうぞ」
栞がテレビつけながら食事をするっていう習慣がなかったから、最初驚かれたから一応訊いたんだけど、カザリちゃんもテレビ観ながら食事するタイプか。
食事に集中できないから、テレビつけないで食べた方が健康的にはいいみたいだけど、BGMがないとソワソワするんだよな、食事中は。
全員でいただきますと、言うと朝食を食べ始める。
「そういえば、カザリちゃんの家ってどの辺なの?」
「ここから近いです」
「そっか」
だったら一人で家に帰れるかな。
あれだけ酔っていたから心配だったけど、二日酔いはしていないみたいだ。
「カザリちゃんって実家暮らし?」
「いいえ。一人暮らしです。なので、いつでも遊びに来ていいですよ?」
「うーん。……遠慮しておこうかな」
横で睨んでいる人いるから、そう答えていた。
いなかったら、安請け合いぐらいはしていただろう。
「そういえば、コラボ動画のこと考えてくれましたか?」
「コラボ?」
カザリちゃんの唐突な問いに、俺はワンテンポ返答が遅れる。
朝だからか、頭の回転が鈍い。
「はい。私とお2人のコラボ動画です」
「何の話? コラボって」
やばい。
不機嫌な声質で栞に突っ込まれた。
何とかフォローしないと。
「カザリちゃんに提案されただけで、承諾していないからね。そもそもどんな動画を撮ればいいのかも分からないし」
「お2人がコスプレするなんてどうですか? 衣装は勿論お貸ししますけど」
あくまでもコラボする前提で話を進めていく。
コラボは色々と問題があるから、あんまり気乗りはしないんだけどな。
「私と水上さんじゃ、服のサイズが合わないでしょ」
「そうかも知れませんね」
「何か言いたい事あれば言ってもいいわよ」
栞の胸を見ながらカザリちゃんが言ったので、箸が折れんばかりに握りしめる。
確かに、サイズが違う。
「それに、巧にだってコスプレ服買わなきゃいけないでしょ?」
「だったら、タクさんだけコスプレしないとか、そもそもコスプレなしにします?」
「それじゃあ、水上さんとコラボ動画撮る意味ないでしょ? あなたコスプレ動画ばかりなんでしょ? 仮にコラボするとしても、視聴者はコスプレが観たい訳だから、少なくとも水上さんはコスプレした方がいいでしょ」
尤もな意見を述べる栞。
コラボをすると浮き上がる問題の一つ。
それは費用の問題。
コラボをするとなると、必ずお金がかかる。
その費用を誰が出すかで揉めるのが嫌なんだよな。
それにしても、話が発展して来たな。
今や誰もテレビを観ていない。
やっぱりShowTuberをやっている人間ばかり集まっているので、動画の話に花を咲かせられるな。
「そもそも、どんな動画を水上さんが出しているのか、私、ちゃんと見ていないんだけど」
「じゃあ、今から見ようか」
俺はテレビのリモコンを操作すると、画面にShowTubeを映す。
スマホの小さい画面よりも、テレビの大画面で観たい。
カザリちゃんのチャンネルは、既にチャンネル登録済みだ。
「え? あ? テレビで観れるんですね?」
「うちのテレビではShowTube観れるようになってるよ。ちゃんと調べて買ったし、ぶっちゃけテレビなのに、テレビ番組よりも、ShowTube鑑賞の方で使うのが多いかも」
少し前ならスマホかパソコンかタブレットっていう時代だったけど、今はテレビで観てしまうな。
気になったテレビ番組はHDDに保存して、後から鑑賞するようになった。
俺がShowTuberだから研究の為にShowTubeを観るというのもあるが、規制の激しいテレビ番組に面白味がなくなったのは事実だろうな。
「何か、恥ずかしいですね……。再生数少ないし……」
「同業者なんだから、恥ずかしいも何もないでしょ。水上さんだって、私達の動画観ているんでしょ?」
「そ、そうですけど……」
テレビを操作していると、確かに低い再生数が目立つけど、そこまで卑下するものでもない。
ShowTubeにおいて、再生数が1000を超える動画は、全体の二割以下と言われている。
華やかな世界に見えて、相当シビアな世界なのだ。
再生回数が多いのは、古参か、企業勢か、芸能人か、金をかけている奴ぐらいなもの。
再生数が少なくても、1000超えるだけで立派だ。
「無節操に何でも挑戦する感じだね」
「これだったら、何か特化させた方がいいかもしれないわね」
俺と栞が、カザリちゃんのチャンネルを観ながら感想を述べる。
栞の言う通りだった。
カザリちゃんのチャンネルをちゃんと見たのは今が初めてだが、コスプレをしながらゲームしたり、食事を作ったりと、同じような企画がなく、手あたり次第試しているようなチャンネルだった。
試行錯誤をするのは大事だけど、今のままだと視聴者も混乱する。
このチャンネルは何がしたいのか分からない。
テレビ番組だって毎週同じことしかしていないけど、面白かったり、自分に合っていたりしたら観る。
毎週違うことをしている番組なんて観ない。
「コスプレしながらピアノを弾いたり、コスプレしながらプラモ作ったりって……。コスプレ動画の配信者って、一つの物だけをやり続ける特化型の配信者がバズるイメージあるわよね」
確かに。
俺の好きな、コスプレしながらピアノのShowTuberの人凄かったな。
この前、登録者数300万人超えちゃったからな。
ピアノ以外もたまにやってるけど、あれは有名になってから試行錯誤しているからな。
まずは、このチャンネルは、こういうチャンネルですって、認知されることが肝要か。
「成功者はそうだね。無難なのはコスプレ衣装着替えとか、コスプレのメイク動画とかじゃないの?」
「視聴者層はどのぐらいの年齢が多いの? あと男性と女性、どっちが多い?」
「えっ、と。どうでしたっけ?」
「ちょっと、ごめん。見せてくれる?」
スマホをいじっているのだが、どこを観れば、視聴者層を確認するか分かってないような手つきをしていた。
カザリちゃんから了承を得て、手早くチャンネルの視聴者層を確認する。
「二十代ぐらいの男性がメインの視聴者層みたいだね」
「はい、そうですね」
俺は再度栞に向き直る。
「それだと、購入してきたコスプレを、生着替えするみたいな動画がいいんじゃないかな。メイク動画って、女性しか興味ないんじゃないの?」
「……そうね。真似してみたいとか、綺麗になったとかって、女性特有の感情かもね。知名度さえあれば、この人みたいにFPSの配信やっているだけで、一万再生超えるんだろうねぇ」
「え? 誰? ああ……」
栞がテレビのリモコンをいじると、そこに映し出されたコスプレイヤーは俺のよく知っているコスプレイヤーだった。
俺が持っている写真集のコスプレイヤーの一人だった。
わざわざ朝から大画面で写さなくていいって。
結構、昨日の夜の記憶残ってるんじゃないのかな? 栞は。
「好きだもんね、巧」
「今はいいだろ、今は」
栞からリモコンを奪い取って、朝の報道番組にチャンネルをかえる。
ニュースが見たかったのだが、スイーツの特番をやっていた。
スイーツの原材料についてのクイズをやっていて、出演しているお笑い芸人が大喜利をしていた。
「……そもそもコラボはするつもりは今の所ないよ。誰ともね」
かなり話を広げたので、ガッカリさせてしまいそうだけどコラボというのは本当に手間暇かかるから無理だ。
仮にやるとしても、今ここでやるかどうかハッキリ答えなんてすぐには出せない。
栞もそれが分かっているはずだ。
それになのに、チャンネルの今後の展望まで語るとは思わなかった。
栞は栞で面倒見がいいというか、優しい奴なんだよな。
「今はお花見に行く動画はどうかと思ってる」
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